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25 巣②

「イヤアァァアァア!!!!???」


 リドゥは一目散に来た道を引き返した。

 その際、空洞と螺旋階段を隔てる岩場を多少垂直に採掘してから階段へ上がる。時間をかけれない以上(たか)が知れているものの、多少は登りにくくなって時間稼ぎになる筈だ。


「アリア──ムギュッ!」


 奴らが上手いことつっかえてくれたのを確認して、僕は「よし!」と階段を駆け上がる。


 今しがた見つけたアリは『獰猛蟻デボアアント』。岩をも噛み砕く強靭な顎で地中や洞窟にコロニーを形成する生物で、その繁殖力と徹底した団体行動から『一匹居たら五十匹居ると思え』の代表格だ。

 そして何より──、目にしたものは大型モンスターでも喰おうとする獰猛性で危険視されている。当然逃げ帰る僕も捕食対象で、僕は内心嘆かずにいられなかった。


 最悪最悪最悪! よりにもよってデボアアントに鉢遭うだなんて! しかも通常個体よりふた周りは大きかったぞ!

 生物には二種類存在する。レッドドッグを始め、時と場合によっては他種族ともある程度の意思疎通が図れるタイプと、デボアアントみたく、他種族以外との意思疎通の概念がないタイプ。コイツらは圧倒的後者!


 やたら長く感じた階段を上がり終えて、広場に駆け込んだリドゥは声を大にして呼びかける。


「緊急! デボアアントの巣と遭遇! 使えそうな武器ありったけ集めて!」

「「「「「モケッ!?」」」」」

「イガッ!?」

「バゥッ!?」


 こちらの呼びかけに風導、イガマキは慌てふためき、果てにはレッドドッグも飛び起きて戦闘準備に入る。これだけで彼等もアリに散々な目に遭わされたのだと容易に想像つくから恐ろしい話だ。だからレッドドッグ、「騒ぎ持ち込みやがってこのクソボケ!」と言わんばかりに通りすがりに頭突くのはやめてくれ。

 だがトラブルを起こした事実は覆しようのない。早く鎮めんと刃牙獣の槍を携えて再び螺旋階段を降りていく。拠点内だからと完全に油断していた! 今後は欠かさず持ち歩くマジで!


 最下層に行くと、既に到着していたレッドドッグが火を吹いてアリを牽制していた。


「ムシー!」

「モゲー!」


 アリたちは火を嫌がってか射程範囲外で立ち往生している。僕もその隙を狙って刃牙獣の槍で最寄りのアリを貫いていくが──、


「熱っち!?」


 少しでも狙いがズレればアリの身体から酸が噴き出して肌を焼いてくる。これがないよう最も酸の少ない眉間を狙わないといけないのだが、向こうもそれを理解して頭を動かすから思うように仕留められない。

 更には、レッドドッグの息継ぎの隙間を縫っては着実に距離を詰めてくるものだから──、


「「「「「シャー!」」」」」


 遂に仲間を踏み台に、即席の防波堤を乗り越えてきた!


「嫌ァーーーーッ!!!!」


 僕とレッドドッグは全力で駆け逃げた。


「なんて言ってやるかァーーーーッ!!!!」


 ──が、直ぐに踵を返して最前のアリを貫き、一列となったアリたちを焼き払った!


 しかしデボアアントの猛追は止まらない。なんならどんどん勢いを増してきている。

 アリの巣から中央広場までかなりの距離がある分、暫くは後退りながらの攻防は叶うものの、それも時間の問題だ。


「ゲフッ……!」


 レッドドッグが激しく咳込む。ほぼ絶え間なく火を吹いてくれていた分、喉の負荷が大きいのだろう。これ以上は喉を痛めかねない。


 ──ジリ貧。


 その言葉が脳裏に浮かんでくる。僕の『採掘』は即興で有効打を放てるものではないし、レッドドッグも酸の攻撃を警戒するなら噛みつき・爪攻撃は割に合わない。最悪拠点の破棄が()ぎった、そのときだった。


「モケーーッ!!」


 風導の声が螺旋階段にこだましてくると同時に、何かの異物音が近付いてきた。

 きっとデボアアントを退ける武器を持ってきてくれたんだ! 即座に受け取る構えをとって顔を上げると、


 ──ゴロゴロゴロゴロゴロ!


 何処から持ってきたか知れない『超巨大岩球 〜ネンチャク草でイガマキのマキビシをくっ付けて〜』が螺旋階段を転がり落ちてきた!


「トゲぇぇぇえええあ!!!???」


 他は即座にレッドドッグを抱えて、脇の通路に飛び込んだ。


 ──グシャグシャグシャ!

 ──ピギーッ?!

 ──ポゲーッ!!


 と同時に、デボアアントが轢かれる音と断末魔が鳴り響いた。

 直ぐさま顔を出して「うっ……」と息を呑む。先程まで無機質だった階段は、早いところ水で洗い流したくなる惨状と化していて、僕は中央広場に居るだろう風導たちに向かって叫ぶ。


「助太刀ありがとう殺す気かアホーーッ!!」

「グォゲェーーッ!!」

「プギャエーーッ!!」


「ん?」

「ガゥ?」

「プギ?」


 リドゥとレッドドッグと、一つ下の通路に避難していたアリたちの目が合う。


「「「「「ムシーーッ!!」」」」」

「回避してんじゃねぇぇぇええッ!!」


 レッドドッグとして最前列の二匹を仕留めてから、再度階段を駆け上がる。まさか獰猛さに反してアドリブにも長けているだなんて!

 風導の声が届いてから岩球が転がってくるまでの時間差を思うに中央広場はかなり近い。岩球の大きさ的に第二弾を用意できているとは思えないし、レッドドッグの火吹きもあと一回すら怪しい。

 これは……本格的にやむを得ないかもしれない。最悪の覚悟が固まってきたそのときだった。


 ──ブーン……。


 何処からともなく場違いな羽音が聞こえてきた。

 一体何事かと顔を上げてみると、


「フンコー」


 刃牙獣討伐の盟友・フンコロガシだった。


「フンコロガシーーーーッ!!」


 僕は思わずその名を叫んだ。

 台風あったけど無事だったんだなフンコロガシ! だけど最悪なタイミングで訪ねてきちゃったなフンコロガシ! 大方寝床相談だろうけどこの拠点もう駄目かもしんないんだごめんねフンコロガシ!


「フンコ! フンコフンコ!」


 おぉ、言いたいことがなんとなく分かるぞフンコロガシ! 現状を聞くなりおまえなりの打破策を引っ提げて駆けつけてくれたんだな!


「フンコー!!」


 フンコロガシは何処からともなく自身の何倍もある肥やし玉を取り出すと、アリの大群めがけて投げつけた!


「フンコロガシーーーーッ!!!!」


 ありがとうフンコロガシ! でもアンモニア臭爆撃ではどうしようもないと思うんだ!


「ん……?」


 自分の脳内発言にふと引っかかり、僕は思考を加速させる。

 そして、ひとつの可能性を見出した!


 ──そうだ、爆弾だ!


「レッドドッグ! あの肥やし玉に最後の一吹き頼む!」

「! ボゥ!!」


 レッドドッグは喉を痛めながらも素直に応じ、空中の肥やし玉に火を吹いた。

 直後、僕はレッドドッグを抱えて駆け登る速度を上げる。できる限り上へ!


 アンモニアは空気と混ざり合うことで爆発の危険性を孕むガスになると聞いたことがある。肥やし玉にレッドドッグの火を放てば爆破撃破ワンチャンだ! 爆発するかは一か八かだがそれに賭ける!


「おおおおお!!」


 最後の力を振り絞って、僕は階段を駆け登った。


 しかし、この選択をリドゥは後悔する。

 撃破か拠点破棄か。一発逆転を賭けた博打の選択。これ自体は決して間違いではないのだが、リドゥはおろか、フンコロガシすら知る由もない致命的欠陥を抱えていた。


 この肥やし玉、火気厳禁のニトロ草が混在している。


 ──カッ!!


「え?」


 肥やし玉が発した爆発のフラッシュに、他は思わず振り返る。


 ──フラッシュ、デカくね?


 次の瞬間──、肥やし玉は凄まじい爆風を放ち、デボアアントの大群を残らず吹き飛ばした!


 その爆風は当然、リドゥたちにも例外なく襲いかかってきた!


「ヤッベ!!」


 僕は目前だった螺旋階段の終着点──、中央広場の入口にレッドドッグを投げ飛ばした。


「キャインッ!!」


 レッドドッグが床に叩きつけられた声がする。突然の行動に反応が遅れて着地に失敗したのだろう。ごめん!


「ぅおらァッ!!」


 続いて僕も中央広場に転がり込むが、しかし息付く暇はない。次は迫り来る爆風の対処だ! と、何かないかと周囲を見回していれば、風導たちが「「「「「モケーー!!」」」」」と何かを持っているのに気付く。


 石ドアだった。


 バッ──と顔を上げると、資材置き場のドアが外されていた。デボアアントが押し寄せてきた時に蓋をしようと外していたのだろう。


「ナイス判断ありがとう!」


 ふんだくるように受け取った石ドアを盾のように構えて「離れろ!」と叫び、僕は螺旋階段に覆い被さるように倒れ込んだ!


 ──瞬間、リドゥはドアごと爆風に吹き飛ばされ、天井に叩きつけられた。


 咄嗟に外へ飛び出したレッドドッグたちも吹き飛ばされた。


 拠点から爆煙が上がった。


 ◇ ◇ ◇


「う……──」


 そして、時間の検討も付かない程の眠りからようやく目を覚ますと、


「あ、起きた」

「……え?」


 三人の男女が、見慣れた拠点内でリドゥを取り囲んでいた。

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