23 移住十日目
「あふぁ……」
イワビタン加入から二日、サバイバル生活十日目の朝──。
換気窓から差し込む朝日に目を瞬かせたリドゥは大きな欠伸をかきながら首関節を鳴らすと、寝惚け眼で寝袋から這い出し、出入口の前に立つイワビタンの足指──に該当する小石をコンコン……と叩いた。
「ゴォン……」
──瞬間、イワビタンがのっそりと横に移動するとともに入口から朝日が差し込み、拠点内の同居者たちが身体を起こした。
「おはようイワビタン。今日もお疲れ様……」
「ゴゴォン……」
イワビタンは頷くように一つ目を細めると再び眠りにつく。元々動きの少ない分燃費は良い方だが、食事と狩り以外は基本眠っているのだ。
イワビタンが加入してからというもの、拠点での生活はまた一つ潤っていた。
まず一つ……冷たい夜風に悩まされなくなった。当然換気窓がある以上完全になくなった訳ではないが、イワビタンが出入口に立ってくれるおかげで冷気に身震いすることが大幅に減った。
そして二つ……これが一番大きいまである。
実は昨日、朝から夕方までゲリラ台風に見舞われていたのだが、これすらもイワビタンは動じす、結果として台風の間も快適に過ごせた。当然、丸一日拠点に籠る羽目になったが。
そして──、この二日間で、リドゥはまた新たな同居人を迎えていた。
「イガー……」
その新入居者『イガマキ』がむくりと起き上がり、「おはよう……」と挨拶してきた。
イガマキは昨日の夕方、「家が駄目になった」と泣きついてきたのだ。聞けば、昨日のゲリラ台風で木の上の寝床が自分ごと飛ばされた挙句、どうにか帰った頃には周囲の食べ物も全部駄目になってしまったそうだ。フンコロガシの安否は依然不明だが、今は無事と信じたい。
なので、今日はイガマキの部屋を採掘ろうと思う。ここ最近採掘ってばかりな気もするが、何事の生活も寝床があってこそだ。
ということで、朝食を終えるなり早速採掘に取り掛かった。
──出来た。
場所は食糧庫と化した元燻製肉置き場の隣。イガマキからも『大部屋・小部屋←』と絵で言われ、且つ寝床の高さも拘らないそうなのでそんなに時間は要さなかった。
「イガー♪」
完成したと呼びつければ、イガマキは採掘中に集めてきたのだろう枯葉を喜んだ様子で部屋に持ち込んできた。
やっぱ自分の部屋って嬉しいよね。下宿で念願の部屋を得た日をしみじみと懐かしむ。
同時に大家さんの顔を思い出す。最後に会ってから十日経つが、元気にやっているだろうか……。
そこから鍛冶屋のおやっさんに、市場の人々と次々連想していき、思わず目尻に涙が浮かぶ。本当に、解雇された自分には勿体ない善人たちだった。
今の生活を見たら驚くかな? 驚くだろうな。何せモンスターと暮らして部屋までこさえているのだから。
「イガー。イガ……?」
目尻の涙を拭っていると、ここで部屋作りを終えて出てきたイガマキが首を傾げるような動作をする。無機質な見た目で感情豊かよなこいつ。
「あぁ、大丈夫。埃が目に入ったんだ。気にしないでくれ……」
「イガ…………イガー」
イガマキは何か黙考すると、焚き火部屋へ去っていった。
「イガー」
「「「「「モケーーーーー」」」」」
そして──、風導たちを連れて戻ってきた。
「イガガー」
「「「「「モケモケモケ」」」」」
風導たちはイガマキ主導のもと、モシャモシャな一頭身で抱擁してきた。
しかも、あのレッドドッグが焚き火部屋から顔を覗かせてきていた。目が合うなり引っ込んだが。
余程顔に出ていたのだろう。彼等なりに励ましてくれているのが痛いほど伝わってくる。
こいつらもこいつらで、温かいやつらだった。
「ありがとう、皆んな。もう大丈夫だ」
「「「「「モケモケ」」」」」
「イガー」
風導たちは焚き火部屋へ戻っていった。
故郷は捨てちゃったけど、なんやかんや人生まで捨てたもんじゃないな。そう結論付けて僕自身も焚き火部屋へ戻ったのだが……──、
「増えたなぁ……」
焚き火部屋で賑わう同居者たちを眺めて改めて思う。現状焚き火部屋が憩いの場と化しているわけだが、一人と十二匹と一体で明らかに手狭だった。
となれば、やることは一つ──。
「拠点、拡張するか」