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解雇されたギルド冒険者は失踪先でモンスターと暮らす  作者: 丈藤みのる
第0章 〜終わりの始まり、始まりの始まり〜
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2 活動域決定

 ぐきゅうぅるるる……。

 森にて──。

 陽が差すとともに鳥がさえずり始めて数時間、居た堪れなくなる音が森中に響いた。

 リドゥの腹の音だった。


「夕飯にするか」


 誰に聞かせる訳でもない宣言に、僕は背負っていた荷を下ろし、先程買っておいた保存食を取り出した。

 木陰に腰を下ろしてそれをもそもそ食べながら、ざっと周囲を見渡してみる。

 街を出てからどれだけ歩いただろう。ひたすら南へ下ってきたが、気付けば駆け出し冒険者が最序盤に訪れる『見限られた森』まで来ていたようだった。

 今居る『見限られた森』は小型モンスターばかりが生息し、駆け出しが多少の現場の慣らしに訪れたらそれっきりな程に冒険者としての()()()()()に等しい森だった。しかしそれは裏を返せば、ギルドの顔馴染みに会う心配はまずないという安堵に直結している。


 よし、ここを活動域にしよう。


 そうと決まれば、先ずは川を探そう。何事においても生物の生命線は水なのだ。食物の自生場所は最悪明日からでいい。食料は持てるだけ買ってきている。


「道中は無かったよな……」


 ここに至るまで川を見なかった以上、南北を探しても川に差し当たる可能性は低い。なら探すべきは東西だ。陽が落ちる前に見つけてしまおう。


「…………陽?」


 僕は食事を止めて空を見上げる。

 木々の隙間からは、朝日が確かに差し込んでいた。


「…………マジか……」


 僕は思わず落としかけた保存食を慌ててキャッチすると、大きく息を吐きながら木にもたれかかった。

 どうやら昨日の昼間から夜通し歩いていたらしい。確かに解雇処分を受けてから気もそぞろだったし外の明暗も知ったこっちゃなくなっていたが、まさか夜になっていたのにも気付かなかったとは我ながらドン引きだ。しかも何気に一食抜かしている。

 まぁ、それだけショックだったということだろう。


 ……あぁ、そうか。


「ショックだったんだなぁ……」


 魔法が戦闘向きでない以上、モンスター討伐クエストが主体たるラネリアでの階級昇進が難しいのは百も承知だった。だから非戦闘員なりに採掘なり採取なりを積極的にやって貢献してきた。してきたつもりだった。

 けれど、それで見逃してもらえたのは前までの話。前ギルド長の急逝による後任着任に伴って発表された新方針ではモンスターを積極的に倒す好戦的実力者の方が遥かに優遇される。実質裏方のリドゥが見限られるのは時間の問題だった。

 だからといって──、


即解雇クビはあんまりだろ……」


 解雇クビということは「要らない人間」と看做されたということ。「お前は無価値」と指さされ、極端な話「路頭に迷われても構わない」と宣告されたようなものだ。

 これじゃあ生まれ育った巣を出るなんて自棄を起こすのも当然だ。空腹も忘れ、日が沈んで昇ったのにも気付かぬ程に……。


「…………川、探そ」


 これ以上は心が折れそうだ。今は目先の目標に囚われるとしよう。

 21歳の若さで何を血迷っているんだと後ろ指をさされるのは重々承知している。それでも今の僕は間違いなく人生のドン底にいた。


「もう社会は懲り懲りだ」


 働けてるから指させるんだ。自分独りを良いことに堂々悪態をつきながら、僕は最後の一口を口に押し込み、荷を持って立ち上がった。

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