14 埋葬
風導たちが刃牙獣討伐作戦の後片付けをしている頃──。
リドゥはレッドドッグと共に刃牙獣の住処──、改めレッドドッグの住処に訪れていた。
「ヴヴ……」
レッドドッグが喉を鳴らす。
今彼の前にあるのは、最近まで奪われて、激変したであろう住処。それを彼はただ静かに見上げているが、その様が僕には、覚悟を固めているようにしか見えなかった。
「レッドドッグ」
「ヴ?」
「この先何があっても、僕はおまえの味方だからな」
「…………」
レッドドッグは何も返さずに、住処へ入っていった。
「う……」
後に続いて先ず感じたのは異臭。それも肥やし玉の一時的なものではない。
遺体の腐敗臭だ。冒険者時代に見つけたモンスターの遺体臭と類似していることを思えば合点がいく。
元々レッドドッグサイズの狭い洞窟だし、換気が上手くいっていないのだろう。そうであってくれと願いながら、意外と深い暗い住処を突き進む。
「あ……──」
そして、洞窟の最奥に辿り着いた僕は、その淡い願望を打ち砕かれた。
そこには、黄土色の体毛を持つモンスターの遺体が転がっていた。死んでから長いのか、ハエが不快な羽音を立てて群がっている。
「ボゥッ!!」
レッドドッグが火を吹き、ハエを追い払う。それでも遺体に集りたがるハエを彼は燃やしながら追いかけ回す。
その隙に僕は、遺体をなるべく傷付けないよう外へ持ち出した。
日下で検視を行う。元凶たる刃牙獣は既に討伐したものの、冒険者時代の職業癖だった。
死因は頸動脈を裂かれたことによる失血死──というより即死。それもかなり深く裂かれていることから余程鋭い刃牙だったことが伺える。真正面から挑まなくて良かった……。
遺体は腹部だけが喰い破られていた。四肢等は噛み跡はあれど喰い千切られていない。
触ってみると、腹部付近は少し柔らかく、四肢は筋肉質だった。筋肉が付きにくい腹部だけを血肉にし、他は放置したのだろう。
思わず「偏食家め……」と毒を吐く。生きる為の食事として殺す分には自然の摂理として割り切るがそれが今回のように度を過ぎれば虐殺だし、何より殺した生物が毒持ちでない限り、可食部の選り好みは生命への冒涜だと腹立てながら検視を続けると、遺体の額にレッドドッグと同じ十字傷を見つけた。
そのモンスターは『オーカードッグ』。結論から言うと『レッドドッグの雌の姿』で、両者は産まれた血縁の額に同じ模様の傷を刻むことで知られている。
つまりはそういうことだろう。態々聞くのは憚られるので明確な言葉にはしないでおくが、それでも心に燻りが生じる。
だって、レッドドッグがどう思っていようと、僕はもう彼のことを……──。
「ガウッ」
「っ……!」
いつの間にか隣にいたレッドドッグに吠えられて、現実に戻される。ハエは無事に焼却し終えたようだった。
「………………」
レッドドッグはオーカードッグをじっと見つめる。その姿が僕には、酷く痛ましく見えてならなかった。
「……レッドドッグ」
「…………」
レッドドッグは鳴かない代わりに、耳だけを向けてくる。
リドゥは近くの小石を拾うと、地面に絵を描き連ねた。
『集られないよう』
『しっかり燃やして』
『骨にして』
『埋めような』
「…………バウッ」
レッドドッグは短く吠えると、深く息を吸った。