12 報復準備② 〜協力者合流〜
「……ケ〜」
「お?」
どうにか拠点へ帰還して数十分──、左腕の手当てを終えてホッと一段落着いていると、外から風導の声が聞こえてきた。
声色から察するに、無事に刃牙獣討伐の仲間を集めてこれたらしい。何処を刃牙獣が歩いているか知れない以上、無闇に外から鳴かないでほしいが。
とか何とか無粋な苦言を考えていると、風導が「モケ〜」と風に乗って拠点に入ってきた。そんなこと出来たんかおまえ。
「お疲れ風導。早速募った仲間を紹介してくれ」
「モケ!」
風導は胸をモスっと鳴らし、「モッケケー!」と拠点の外に呼びかければ──、
生活を守りたい有志が、入口に並んだ!
再会できた風導、計九匹!
存在が発覚するなり「こんな生き物居てたまるか!」と学会を激昂させた陸上のウニ、イガマキ!
ラネリアフンコロガシ。
リドゥは不貞寝した。
このメンバーでどうしろってんだよ……。
集めてもらって悪いが、彼等を活かした致命打が一つも思いつかない。かと言って……──、
チラリと丸くなっているレッドドッグに目を向ける。拠点に戻ってきてからというもの、一言も発さずあの調子だ。
レッドドッグの炎は強力なものの、燃え移る体毛を持たない刃牙獣には効果が薄いとギルドにも報告が上がっていた。何より黄土色の体毛を見つけたときのレッドドッグを思えば顔を見るなり「作戦なんざ知るか死ねぇ!!」と怒り任せに飛び出しかねない。
いや、ホント……マジでどうしよう……。
「…………いや、違う」
僕はムクリと身体を起こす。そもそもの前提が間違っているのだ。
彼等の力はあくまで刃牙獣を倒す為の『補助』と考えよう。別に無理して作戦の要に仕立てなくたって良いのだ。そう考えると気が楽になってきた。
「お……?」
そう割り切った途端、僕の頭の中にあらゆる案が浮かぶ。
先ずはああして誘き出したら次はあそこに、そしたらこうやって煽って突っ込んできたところを、からのダメ押しに……そしてトドメは……。
……うん。これならワンチャン上手くいきそうだ。
ただ、一つ問題がある。この作戦だと囮が必要なのだが、脚力を考えると僕以外担えそうにないのだ。しかも、ミスれば死亡確定。
別にこちらが死ぬのは構わない。元々レッドドッグと対峙した時点で生に頓着する気はないのだ。
じゃあ風導たちは? 彼等は皆死に怯える生活を恐れ、それを覆さんと勇気を振り絞って此処まで来ているのだ。しかもこちらの実力は一切知らずに。
「だったら、犬死にしてらんねぇや」
僕は自身に言い聞かせるように独り言ちると、「風導たち──、」と小さな生命たちに向き合う。
「この作戦が失敗したら僕は間違いなく死ぬし、君らも最悪殺されます。それでも参加してくれるなら、僕に生命を預けてください。どうかお願いします」
「「「「「「「モケ!!!!!!!」」」」」」」
「イガ!」
「フンコー」
「フンコって鳴くのおまえ?」
初めて聞くフンコロガシの鳴き声に出鼻を挫かれたが、まぁいい。彼等の信頼は得られた。
残す問題は……──、
「レッドドッグ」
話しかければレッドドッグは、ピクリと耳だけを向けてくる。
「君にダメ押しの要を担ってもらいたい。一緒に辛酸舐めさせてやろうぜ」
「………………」
しかしレッドドッグは無返答だった。
だが無理もない。レッドドッグからすれば仇を前に二度も撤退したことになるのだ。そうせざるを得なかったと理解していても、自身の不甲斐無さに打ちのめされる(ように見える)のも仕方ないと思う。
参加するかは後でまた聞こう。僕は一旦レッドドッグから視線を外し、風導たちに担ってもらいたい部分の説明を始めると──、
「バウ」
「おおっ」
気付けば僕の横に並んで、説明用の石プレートを覗き込んできていた。
レッドドッグの目は、静かな怒りと闘志を燃やしていた。
……参加云々を聞くのは野暮だろう。
「レッドドッグ。君にこそ任せたいところがある。今から聞いてくれ」
「ガウ」
レッドドッグは「早くしろ」と言うように、リドゥの隣に座った。
リドゥは決意を新たに、改めて説明を始める。