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11 報復準備① 〜居場所特定〜

 拠点を飛び出し数十分──。

 草木を掻き分け川を越え、木々の間を駆け抜けたところで、先行していたレッドドッグはようやく足を止めた。

 辿り着いたのは森の外れの岩場の洞窟──の手前の草陰だった。どうやらあそこが刃牙獣ブレングの巣穴らしいけれど……──。


「やけに小さいな……?」


 刃牙獣の推定頭身に対して、洞窟は些か小ぶりな気がした。中の広さは知れないが、あれでは這わなきゃ入口に頭をぶつけてしまうだろう。

 と、思っていたとき、「グゥ……」とレッドドッグの唸り声を聞く。

 左を陣取るレッドドッグは苦々しい表情で洞窟を眺めていた。


 そこでリドゥはようやく気付く。


 あの洞窟、元々は隣のレッドドッグが住んでいたやつだ。それなら入口の小ささにも納得だ。

 それにしても、刃牙獣に巣穴を奪う習性があったとは驚きだ。今度レイム上司に「刃牙獣って巣穴強奪するんですね」と話を振ってみよう。自分の知識不足なだけかも知れないが、もしかすれば新発見かも知れない。

 ……いや、ちょっと待て。そもそもの話、ギルドを解雇されたから、自棄になって飛び出してきたんじゃあないか。

 しかも、ここまでの道中は『南の方角へ歩いた』以外微塵も憶えてないし、『見限られた森(ここ)』に来るのは余りに久しい故、ラネリアからどれくらい離れてるかも覚えてないから訪ねようがない。というより解雇された以上出入りする気になれない。我ながら虚しくなる思いを馳せてしまったものだ。


「ん?」


 気を切り替えようと頬を叩いたところで、あるものに気付く。


「あれって……」


 遠目ながらリドゥは、洞窟の入口に黄土色の体毛を見つける。洞窟のサイズ的に地面に擦って抜け落ちたか。


「──……黄土色?」


 このとき、ふと引っかかる。よくよく思えば刃牙獣は全身が筋肉質で体毛は生えないタイプ。そもそもの体色は深紅色だ。

 だとすれば、あの黄土色の体毛は最近捕食した獲物のものだ。

 なら、そこからどれだけの獲物を捕らえられる強さの個体か測れるかも知れない。脳みそをこねくり回して黄土色の生物・モンスターを割り出しにかかる。


「あ」


 この瞬間、あるモンスターを真っ先に思い浮かべ、僕は思考を停止する。そのモンスターは該当するが、該当してほしくないからだ。

 だって、もしそいつだとしたら──、


「グルル……!」

「……ッ!」


 そのとき、最大の懸念点が動き出しそうなのを、僕は視界の端で捉えた。

 レッドドッグだった。目を見開き、牙を剥き出し、腸を煮え繰り返すように低い唸り声を上げ続けている。火を見るより明らかな激昂状態だった。


「バゥッ!」


 そして案の定、怒り真っ赤にレッドドッグは草陰から飛び出さんと地面を蹴った!


「ちょ待っ──ッ……!?」


 咄嗟に行く手を阻んで、僕は顔を歪ませる。伸ばした左腕を諸に噛まれたからだ。


「ゴルル……!!」

「ッ……!!」


 レッドドッグは「邪魔すんな!」とばかりに噛む力を強める。あまりの痛みに悲鳴が出そうだ。

 だが、僕は奥歯を噛み締めて、噛まれたままレッドドッグを押さえつけて囁くように叫ぶ。


「落ち着けないだろうが落ち着け! 怒り任せに襲撃んだって返り討ちだ! 犬が犬死になんて笑い話にもならない!」

「ゴルル……!!」


 しかし、レッドドッグは口を離さない。それでも構うもんかと僕は続ける。


「居場所を追いやられた屈辱もそこでのうのうと過ごされる怒りも分かるつもりだ! だから見返す為にも今は堪えろ! 晴らすなら算段立ててから晴らせ!!」

「ゴルル……!」


 それでもレッドドッグは口を離さない。

 ──が、心做しか噛む力が緩んだ気がする。もう一息だ!


「今回は僕も風導もいる! 解雇されたような雑魚でも雑魚なりにやってみせるから! こちとらだって生活脅かされてんだから、同じ境遇の住民巻き込みまくって一緒にぶちのめそう! な?!」

「ゴルル……」


 噛む力がまた弱まった。段々と理性的になってきているのが伝わってくる。やるなら今だ。


「風導、頼む!」

「モケ!」


 肩に乗っていた風導は地面に降り立ち、ツタの手をレッドドッグの鼻穴に突っ込んだ。


「フガッ」


 突然の刺激にレッドドッグは思わず僕の腕を離す。そのタイミングでリドゥはレッドドッグを抱きかかえて来た道を引き返す。


「クゥン……」


 レッドドッグはすっかり大人しくなっていた。

 元々彼は回復に徹する理性を持ち合わせているのだ。じゃなければ初日の雨を凌ぐなり無鉄砲に報復へ出向いている筈だ。

 だが、いつまでも感傷に浸ってはいられない。対策の一手に僕は「風導」と指示を出す。


「今からでも協力してくれそうな仲間を集めて、拠点に連れてきてくれ。そこから手段を考える」

「モケッ!」


 風導はツタの手を伸ばすと木の枝を掴み、「モ〜ケケ〜……」と僕の肩から離脱した。現状打てる布石はこれくらいだろう。

 後は……取り敢えず帰ったら先ずは治療だ。左腕の痛みが無視できなくなってきた。


 感染して使えなくなったらやってらんないよ。


 一人痛みに堪えるリドゥに抱きかかえられ拠点へ駆け戻る間も、レッドドッグは古巣の方角から目をそらさなかった。

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