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105 アウネVSミーニャ

 一方──、レッドVSエウィン、決着数分前。


「うぐぐぐぐ……!!」


 ミーニャの拳が、肘が、蹴りが、膝が、頭突きが止めどなく放たれる。彼女の連撃は休みを知らず、アウネは攻めあぐねていた。


「あッ!」


 一瞬の対応の遅れを突かれ、防御を崩される。


「しまっ──!」

「しゃあッ!!」

「おぐふッッ!」


 再度防御を試みるも間に合わず、正拳突きを諸に受けて吹き飛ばされる。地面を何度か跳ねたところで無理くり立ち上がれば既にミーニャは距離を詰めてきていた。


 ここでの追撃はマズい! とにかく動きを止めようと、いばらムチを生やして大きく振りかぶられた彼女の左足を縛ろうとするが、「ふんっ!」とあっさり抜け出されてしまう。

 が、攻撃を中断できただけ充分! 更にいばらムチを生やして彼女との間に壁を作るも──、


「だらっしゃあッ!!」

「あらま!」


 先程同様、ミーニャは凄まじい威力の殴打でいばらムチに穴を開けてきたではないか! 回り込むなんて回りくどいことはせず、力づくでの直進! 拳の負傷も厭わぬなんて強気な姿勢!

 正直、めっちゃ好き!


 だが、二度も破られるのは百も承知!


「ここッ!」


 いばらムチに魔力を送り、空いた穴を最速修復して拘束に掛かる! これには彼女も気付くが、既に彼女は私のもとへ来ようと穴に身を乗り出している以上、脱出は出来まい! この勝負「もらいッ!」だ!

 が、ミーニャは「貰わせませんよ!」と宣言するなり穴の縁を掴む両手に力を込めて、穴が閉じ切るよりも速く私の懐へ飛び込んできた!


 これに私は反応しきれず、勢いのままに頭突きを喰らって地面を転がる。よくやく止まったと思えば、彼女は馬乗りになって私の両腕を両膝で固定してくると、私の頭を掴んで──、


「それは止めて!」

「あふんッ」


 渾身の頭突きをかまそうとしてくる彼女をいばらムチで殴り飛ばし、強引に距離を離すことに成功する。


「はぁ……!」


 目いっぱい呼吸してから顔を上げて、歩み寄ってくるミーニャに私は軽口を叩く。


「全く、とんだじゃじゃ馬娘ですね。貴女も私と大差ないじゃないですか」

「元々こうでしたからね。しかし良かったのですか? 私が馬乗りになった際、貴女はいばらムチで私を殴り飛ばしましたが、あそこが拘束する最後の機会だったかも知れませんよ?」

「流石にそんな無茶はしませんよ。貴女、おいそれと拘束されないよう手を打ってるでしょう?」

「と言うと?」


 ミーニャは開きっぱなしだった目を閉じて、わざとらしく小首を傾げる。とぼけちゃって……。


「貴女、身体中を見えない膜で覆っているでしょう? それなら微量な隙間が出来て拘束からの脱出も容易です。足を絡め取ろうとした時といい、穴から飛び出してきた時といい、反応が良いで片付けられる速度じゃあありませんでしたもの」


 これに彼女はニコリと微笑み、「御明答」と解説を始める。


「仰る通り、私は魔法を応用し、所謂『不可視の鎧』で全身を包んでおります。故に、私の素肌には攻撃は届きませんので、拘束での決着は当てにしないことを薦めますよ」

「それは無理な話ですね。私、回復液の味を改良しては被験……毒味役をひっ捕らえてきたので、緊縛には誇りを持っておりますの」

「その毒味役、泣いてらしたでしょう? 回復液は思わず吐き出さなくなるまで長い積み重ねがあったと聞きますから」

「毅然とした方が渋い顔になったり、明るいお馬鹿さんは毎度泣いてました。リドゥさまなんか律儀に悲鳴を上げてて……ゾクゾクしましたわぁ……!」

「ちょっとよく分かんないですね」

「なら分からせてみせましょう!!」


 私が啖呵を切るのを合図に、ミーニャとの肉弾戦が再開される。


 しかし大口叩いたまでは良いものの、彼女の『不可視の鎧』が厄介なのは代わりない。事実、会話で確信を得る前も今だって、幾ら殴っても手応えが無い、まるで空気壁を殴ってる気分なのだ。


 それに加えて仮説を立ててみたが、彼女は鎧を伸縮・拡張することで『不可視の拳』を生み出してる可能性もある。だとすれば先程いばらムチに穴を開けてきたのも『拳に不可視の巨大トゲを纏っていた』とするならば説明がつく。


 なら先ずは『身体に纏った場合の『不可視』の攻撃範囲』を特定する! 無力化はその後!


「──!」


 そのとき私は、レッドが対峙していた青年を倒す姿を視界の端で捉えた。


 瞬間──、攻撃範囲が分かり次第攻略に移れる術が脳裏を駆け巡った!


 私は魔力が許す限りのいばらムチを生やして、全てにファイティングポーズを取らせる! 総計二十本!


「拘束は無理と踏んで、殴り合いを望みますか! 受けて立ちましょう!!」


 ミーニャは「しゃあッ!」とかけ声一発、いばらムチを次々破壊していく。全て破壊し尽くされる前に見破らんと、私は攻撃を凌ぎながらその様子を観察する。


 1本目……観察失敗。角度が悪かった。

 2〜4本目……失敗。複数でよく分からなった。

 5、6本目……失敗。防御で観察どころじゃなかった。

 そして、7本目……。成功!


『不可視の拳』の攻撃範囲はミーニャの腕の長さと丁度! あの長さなら充分実行可能!


「勝機得たり!!」


 残りの13本を巨大な1本に纏めて、ミーニャへ思い切り振るうと、彼女は「返り討ちにしてあげましょう!!」と予想通り突っ込んで、拳を振るう腕を引っ込めた。


「そこッッ!!」


 彼女が腕を引っ込めた瞬間に合わせて、いばらムチを分解して彼女を丸ごと包み込む。これで暫くは出て来れない筈だが、「〜〜ッ!!」と中で暴れられてる手前、悠長にはしてられない!


「レッドさん!」

「呼んだか?」


 名前を叫べば瞬時に隣へ寄ってきた彼に、私は思わず「速ッ!!」と叫ぶ。


「誰のもとでも駆けつけられるよう、耳をそばだてていたからな」

「ありがとうございます! では何も聞かずに、いばらムチの球体部分に火を放ってください!」

「分かった」


 レッドは本当に何も聞かずに、いばらムチへ飛び移ると、大きく息を吸って、ミーニャを包む球体部分へ火を吐いた!


 私は球体部分が燃え尽きないよう全力で魔力を注いで補強する! 相性もあってしんどいことこの上ないが、搾り尽くす勢いで魔力を注ぎ続ければ……──!


「……」


 球体の中のミーニャが、途端に大人しくなった。


「レッドさん、終わりです! ありがとうございました!」

「そうか」


 私の声に従い、レッドは火を吐くのを止めて、地面に降りる。

 そして私が、黒焦げになった球体部分をパカリと開ければ──、ミーニャは完全にのぼせていた。


「アウネ。言われるがままやったが、何をした?」

「蒸し焼きにしました。彼女、物理干渉できない魔力の鎧を纏ってたのですが、熱ならワンチャン通じるかもと思い至ったのです」

「成程。だが、俺が来なかったらどうしたんだ? 確実性のない作戦はどうかと思うぞ」

「そんときは別の手段を考えましたわ。さて、ミーニャさんの拘束が済んだら、私は一旦魔力回復に退かせてもらいます。今ので魔力枯渇寸前ですので。その間の防衛を頼めまして?」

「行ってこい」

「ありがとうございます♪ ところで回復といえば、ロイストさんは大丈夫でしょうか?」

「状況を見るに、向こうの回復は滞ってるようだ。上手くやると信じて、俺たちはこっちに専念しよう」

「それもそうですね」


 レッドの意見に賛同し、私はミーニャが脱ぎ捨てた上着で、彼女の手足を結ぶ。彼女のことだから腕だけ拘束したところで、足技で暴れるのが目に見える。


 その際、亀甲縛りを試みたが、そもそもの長さが足りなかったし、レッドさんから「遊ぶな」と背中に足を乗せられたので、私は諦めざるを得なかった。ちぇっ。


 ──アウネ()VS()ミーニャ

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