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101 ロイストの半生

「むぅん!!」


 魔族の同胞と冒険者たちがコチラを取り巻き見守る中、真正面に構えるゴーダンへ、ロイストは赤黒く、そして禍々しい大槌を、掛け声に合わせて力強く振り上げた。


 これにゴーダンは私と同様、巨大な大槌を振り下ろして応戦すると、強い衝撃が腕に浸透してきて、同時に大きな音を鳴らしながら互いに弾かれた。


 顎を打ち上げる勢いで振るい返した気でいたが、ゴーダンは人間の身ながら、私と膂力が拮抗しているのが今の一撃から伝わってくる。純粋な力比べでは主が望まぬ長期戦になりかねないだろう。


 ──ならば搦手を使おう。


 そう思い至り、何度かの攻防の末に得物を弾かれ、その隙を突いてきたゴーダンの打撃が私の顔面を直撃!


 ……すると誰もが思った瞬間、私は頭部を月光虫に『変身』させて空振らせた。


「何!?」

「ぬぅんッ!!」


 弾かれた反動をつけて大槌を振るう。これには僅かながら面食らったゴーダンは反応しきれず防御が遅れ、若干よろめいたところを追撃せんと、更に私は一歩踏み込んだ!


 ──シュゴォッッ……!!


「──!」


 直後、ゴーダンの大槌の裏側が開き、大量の魔力エネルギーが放出されるとともに、凄まじい勢いで振り上げられた!


「ムおっ!?」


 それを咄嗟に回避して、私は一度距離をとる。回避が間に合っていなければ一撃で気を失っていただろう。仮に防御が成功したとて、防御の上から天に打ち上げられていた!


「「「オオォオォォオオオーーーーッ!!」」」


 周囲から歓声が上がった。両者一歩も譲らぬ戦いに、誰もがこの時だけは合戦中だと忘れてしまう程に熱狂していた。


 だが二人は一切気に留めない。限られた範囲内で互いに互いしか姿が見えなくなる程に、誰の声も聞こえなくなるまでに二人は集中していた。


 その二人だけの世界で再度一進一退の攻防を繰り広げながら、私は相対する冒険者筆頭へ声を投げる。


「まさか仕込み武器で反撃してくるとは思わなんだ。私の頭部だけの『変身』に驚いてたからと深追いしてしまった……!」

「驚いたのは俺もだロイスト。私の変形武器を初見で躱されるとは予想外だったよ……!」


 そう打ち明けるゴーダンの魔法は未だ披露されていない。発動条件を満たせていないのか或いは……?


 だったら使わせる前に戦闘不能へ追い詰める! そう信じて『変身』をフル活用して一気に攻め込みながら、蹄で思い切り足を踏み潰せば「ぐ……っ!!」と彼は怯んだ!


 勝機は今──! ロイストは渾身の一撃を振り下ろした!


「ここッ!!」

「ッ……!!!?」


 ──その瞬間! ゴーダンの大槌が手持ち大砲へと大きく形状を変えて、砲弾の如き魔力エネルギーの一撃を顔面に直撃させてきた!


「ごホッ……!!」


 頭部から煙を上げながら、今の痛恨の一撃が何故(なにゆえ)のものか、私は理解する。


 ……あぁ、そうか。彼の大槌は仕込み武器なんかではない。魔法の力で物の形状・構造そのものを『変形』させていたのだ。容易く発動できる魔法ではないと『思い込まされていた』のだ。


 自分で自分自身を追い込んでいたと理解しながら薄れゆく意識の中、ロイストはふと思い出す。


 ◆ ◆ ◆


 ロイストが過去に属していた群れは、リーダーによって統率されていた。


 そのリーダーがある日死んだ。群れを逃がすべく殿を務めていた際、逃げ遅れた我が子に気を取られたところを狙われ、首筋を噛み千切られたのだ。


 辛くも逃げ延びた群れは新たなリーダーを欲した。程なくして、複数頭の戦士がそれを決める為の決闘を始めた。


 その一頭に名乗りを上げたのが私だった。忠誠を誓った亡きリーダーの御子と群れを守りたい一心からだった。


 結論を言うと私は敗北して、他の敗北者共々群れを追われた。敗北者に皆を守る権利はないという昔からのルールだった。不利益極まりないしきたりだが、当時反論する余力も権利も無かった私は、手負いの身体を引き摺って群れを去るしかなかった。


 それからは灰色の世界だった。流れ着いた森でただ一頭、草を食して、寝て、時折生命を賭して縄張りを守る。だが群れを追われた自分に価値はあるのかと脳裏を過ぎらなかった日はなかった。


「イガー」


 そんなある日、訪ねてきたイガマキから避難勧告が出された。近々森に潜伏している滅喰龍との大規模な戦闘が始まるから、こちらで用意した拠点に越してこいだそうだ。


 取り敢えず、巻き込まれたくないから言う通りにした。


 結果──、洪水に呑まれたと思えば、身体が変貌を遂げた。


 私はもう生きられないと覚悟した。急激に変貌した身体でどう生きればいいのか、何一つ妙案が湧かなかった。灰色だった世界が終ぞ黒一色となった瞬間だった。


 ──が、『拠点の主』リドゥ・ランヴァーは、自分たちの定住を受け入れる姿勢を示した。一時的に避難してきた自分たちの変貌を目の当たりにするなり、衣食住の整備から身体の使い方の教授と、自分たちが生きる為の助力をしてくれた。


 出ていかなくていい──。群れを追われた自分たちに、そう行動で宣言してくれたのが、どうしようもなく嬉しかった。彼に忠誠を誓うには充分過ぎる理由だった。


 だから私は、今ここに立っている!


 ◇ ◇ ◇


「ぬ……?!」


 周囲が固唾を飲んで見守る中、ザッ……! と地面を踏みしめる音を鳴らして、天を仰ぎかけたロイストが息も踏みとどまった。

 強烈な一撃を与えたにも関わらずタフなものだ。この一撃で倒せなかったのは初めてだ。


「グぶ……ッ……!!」


 しかし彼は既に虫の息。それでも耐え切った以上何をしてくるか分からないので、ゴーダンは十分に警戒しながら再び距離を詰める。


「ブモォォォオオーーーー!!!!」


 次の瞬間──! 咆哮を上げたロイストの角に纏わった魔力が空に放たれ、落雷がゴーダンを直撃した!


「〜〜ッッ!!!!?!?!!??」


 全身を焼き尽くす勢いで駆け巡る激痛に、ゴーダンは硬直した。


 刹那──! ロイストの大槌がゴーダンの腹を殴り飛ばした!


「ブぼッ!!」


 胃のものを全部吐き出してゴーダンは激しく咳き込む。一体何が起こったかと顔を上げれば、ロイストの角が電流を纏っていた。長期戦闘等で血流が激しくなった時に見られる、雷角牛特有の魔力現象だ。


 ロイストは息も絶え絶えながら、未だ闘志を宿した目でこちらを見据えてくる。


「私の力は、主の為にあり! 多少強かれど一撃で屠られるなどあってはならんのだ!!」

「……! 同感だ!!」


 ゴーダンは体勢を立て直し、再び得物を構えた!


 ◇ ◇ ◇


 一方──。場面は再び二龍大戦跡地。

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