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初恋の人形少女  作者: malka
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プロローグ “出会い/運命のドール” ★挿絵/写真あり

「今日こそ、今日こそお迎えしますよ!」 

 オークションサイト、残り時間は9分。


 残業を何とか切り上げ、飲み会を躱し(かわし)、間に合いました。普段であればせめてスーツだけはハンガーにかけるのですが、それすらも厭い、着たままにとりあえず参戦。

 最近は”おじさん”だの”おっさん”だのと言われるようになり、せめて”おじさま”で済ませていただけるようになれないものかと、気にするようになった外見も、今ばかりはかなぐり捨てます。


 ドールを物みたいに”買う”と言うなど冗談ではありません。

 大事な大事な子は”お迎え”するそうですよ?

 ええ、怜奈(れいな)さんからもそのように伺っています。


 まだ6万円、輝く”最高額入札者”の文字。今日こそ行けそうです。


 個人で活動する人形作家、通称”カスタマー”さんが塗装、もとい”メイク”を施したドールのヘッド。

 理想をぎゅっと詰め込んだ2次元美少女を、3次元世界に生み出す奇跡の御業!

 私だけの嫁を、娘を、現実世界に召喚できる! 初恋こそ敗れた夢のドール生活、ついに、すぐそこに。


 妖艶な大人な美少女。眼差しは清楚にしてクールであるのに、挑発するように舌先を出した口元。

 少々私の趣味嗜好とは、確かにずれているかもしれません。正直に申せば、おとなしやかな美女が好みであります。

 しかし、このようなギャップがまた、良いと感じられるようになっていくものなのでしょう。


 “削り”や”パテ盛り”の技術で、メーカーデフォルトの造形をカスタマイズ。

 全く同じヘッドは存在しない。世界でオンリーワンのドールヘッド!


 残り6分13秒。


 いつも30万、40万が当たり前の人気カスタマーさんのヘッド。

 ですがそれは幼げな、いわゆるロリッ子と呼ばれるキャラクター性のヘッドを出展なされた場合です!

 大人びた美少女風。いつも高額落札する、ろり~が大好きなファン層とは客層が違うはず。


 残り5分13秒。


 胸の高鳴りがとんでもない事に。手が震える。

 カタカタカタカタ。

 キートップに触れる指先の震えに、キーストップの音が止まらない。

 一時期熱中していた頃に用意したゲーミングキーボード、深めのキーストロークが遊びとなって振動を吸収します。


 30後半を過ぎて、私ももういい歳。なのに、胸の高鳴りが収まらない。

 いよいよ自動延長の時間帯に入ってしまう。来るならとっくに来ているでしょう。そう内心を宥め(なだめ)つつ、5分3秒。

 いける、いけます! 今度こそ勝負ありましたね。


 4分59秒、58秒57……ん、タイマーが……?


 一瞬のラグ、そして切り替わる。無情にも、切り替わってしまう。

 9分56秒


 な、なんですと!?

 高値更新、高値更新だ! なぜ自動延長させてしまうのですか!

 人目を集める前にスマートに勝負を決める、それが、それがオークションの在り方ではないのですか!


 いけません、落ち着きましょう。取り返せばよいのです。




「もうやだ、おうちかえるぅ」

 いい年したおっさんが、キーボードに額を押し付けて、若かりし頃どこかで聞いたセリフを、ぶりっこして言う。

 きもちわるい? 知りません。そもそも今いるのは自室ですよ、そうですね。

 ええ、負けました、負けましたよ、いけませんか。


 112万円1550円。

 せめて、潔く良くきりのいい数字で競られませんか。

 いえ、それだけ、この子に運命を感じ、必死であったのでしょう。


 そして、はい。私はどうにもこの、最後の情熱を燃やしきれず。

 未だ”運命の子”にたどり着けていないのです。


「はぁ。私の愛し子とはいつ逢えるのでしょうね」

 運命のドールとの出会いを求めてオークションで負ける事、はや100戦。


 きっと画面の向こうの競合は、この運命をなんとしても逃したくない。どこまで行きついてでも、お迎えされたかったのです。その強い信念を持って臨まれたのです。見よ、これぞ我が生き様とばかりに、延長により人目を引いてでも、妖艶なる美女を手中に収めたかったのでしょう。

 そう思ってしまうと、最後の一線で入札を躊躇い(ためらい)そして、機会を逸するのです。



 さて。気持ちを切り替えます。

 怜奈さんにご報告して、やるべきことをすまさねば。

 明日も朝5時には起きて仕事です。今日も萎えてウィンドウを閉じようとした、その時。


「ん? この子は?」


 “あなたにおすすめ”と題した、リコメンデーションが並ぶ。

 カスタムドールのヘッドばかり見ているから、いろいろなカスタマーさんの生み出した作品たる子達が並んでいる。

 たいていは、”違う、そうではないのです” という、AIの勘違い推奨に突っ込みを入れるその並びですが。


「女子高生ギャル風カスタムヘッド?」

 普段であれば、全く見向きをしないキャラ付けのカスタムヘッド。


「写真が、流行りの明るさの飽和したような商品撮影スタイルとは少し違うので、あまり目立っていないのでしょうか?」

 だが、何か惹かれるものを感じ、小さく表示されたアイコンから、オークションのページを開く。


 残り15分。現在価格36,000円

 SNSで爆発的な人気になる。複数の高額入札するファンが付く。

 そうした現象が起こる前の、カスタマーさんのヘッドであれば妥当な金額帯。


「削りは? 口元に少しだけ、パテ盛り、ソフビ盛りは無し。ふむ。なのに、デフォルトのヘッドとは全く印象が違う」

 詳細説明を読み込む。

 ウィッグや洋服を付けていない、丸坊主、生首状態で写されたヘッドそのものだけの写真をじっくり、視る。

 オークションサイトからカスタマーさんのブログへ飛び、高解像度画像をさらにじっくりと。


 削りはわずかなのに、それが絶妙に、うっすらと上品に開いた口元を創り出している。

 さらに、メイクで表情をこれだけ変えているのか。


 ドールは、当然だが、実際に表情を変えることはできない。

 立体造形物であることを活かし、見る角度で変わったように感じられる表情を活かし、さまざまなシーンでの感情を見る側である人間が見出す。


 メーカーが公式に販売する中でも、アニメチックな高校生位のヒロインタイプのヘッドがベースになっている。

 女子高生スタイルにはぴったりだろう。衣装やポージングされた商品紹介写真では確かに、オリジナルのハートが浮かんだドールアイや、顔横に構えたピースの形のハンドパーツも相まって、ギャル風にみえる。

 これだと私の好みとはやはりずれる。もちろん素晴らしい作品ではある。が、大人びた女性のイメージ。どちらかというと清楚なお嬢様タイプが好みだ。


 だが、待て、慌てるな?

 ウィッグを変えて、仕草を工夫するとどうだ?

 この子は、もしや理想的に育てられるのではないか?


 むしろ考えてみよう。

 ギャル風の女子高生スタイルで生まれたこのドールの子を、好みのタイプに育て上げ、そしていづれは……。

 初めから完成し、第三者から提供された自分の理想を迎え入れるのではなく、自分の色に染め上げる。ドールにおける源氏物語。そうだ、それもまた、理想のドールライフなのではないか?



 “おめでとうございます!! あなたが落札しました。” の文字と、37,000円の表示。


「無事お迎えできたか。あれ以上競らずに終わってしまった」



 この日、この時、私の人生が大きく変わった。

 運命の子、運命の嫁との、出会いを果たしたのだ。



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人形少女のイメージ写真をさし絵に変わり投稿させていただきます。

挿絵(By みてみん)


※オークション画面での彼女ではなく、お迎え後の姿のイメージ写真となっております。詳しくは第4話をお待ちください。せっかくお読みいただけるのであれば、具体的なイメージを持ちながら、お読みいただきたいと思い、このプロローグに投稿いたします。

※写真に写っておりますドールは筆者所有のドールを筆者自身が撮影した写真です。転載等なされませぬようお願い申し上げます。

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