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トーストの行方

作者: 杉谷馬場生

 住宅街の中にある些細な公園である。遊具はすべり台がひとつ。その他は何もなく、運動するには少し狭いような広場がある程度だ。

 そこにしゃがんで何やら機械をいじっているのは白衣姿の男たちである。白衣姿の男たちは3人で、皆がまるで暖をとっているハムスターのように一つの機械の周りにしゃがんでもぞもぞとやっている。そのせいで何の機械をいじっているのかわからない。ただわかるのはその機会にはコードがついていてその先は男たちから少し離れた自家発電機に繋がれている。その機械はどうやら電気で動くらしい。

 やがて男たちは準備が終わったのだろう。機械から離れるとその機械が何の変哲もないトースターであることがわかった。食パンを2枚焼くことができる、焼けたらガシャンと飛び出しくるタイプである。トースターには当たり前のようにパンが2枚、セットされている。

 トースターはジジジとパンを焼いている音を静かに立てている。白衣の男たちはその音を聞いているのか、いないのか、トースターをじっと見つめている。

 香ばしい香りが漂ってきた。パンが程よく焼けようとしているのだ。白衣の男たちの一人の腹の音が「ぐう」と鳴る。しかし男たちは皿も何も持ってきてはいない。食べるつもりはないのだ。ならばやがてできるであろうトーストは何のために焼かれているのか。

 そして間も無く、ガシャンと音を立てて2枚のトーストは勢いよく焼き上がった。その焼けた勢いは凄まじく、2枚のトーストは大空に高く飛び上がった。白衣の男たちは「やったぞ!」「成功だ!」と周辺のマンションやアパートよりも高く高く飛び上がるトーストを見つめながら歓喜の声をあげた。そのトースターは改造されていたのだった。

 そうしてトーストはどこまでも飛んでいく、トースターから飛び出た時は熱々であったが、長く空気に触れていた事で急速に冷めた。それでもトーストは山の高さを超え、それでも速度を落とさずに飛んでいく。

 2枚のトーストはしばらくは同じ軌道で飛んでいたが、上空の風に煽られながらやがて離れていった。それでも進行方向は上へ上へと進んでいく、やがて雲の中を突き進んでいくと、カリカリだった表面が瞬く間に湿気が纏わりついた。それでも2枚のトーストは速度を落とさない。やがてオゾン層を通過し、大気圏に突入した。温度が上昇していく。

 そして2枚のトーストの運命がここで決した。1枚は表面を焦がしながらもどんどんと上昇を続ける。しかしもう一枚は角度が悪かったのか、表面が焦げた先からもろもろと崩れていく。その散り様は一瞬だった。トーストの一枚は大気圏の藻屑となったのだ。

 そして残った1枚のトーストは全身が真っ黒になろうとも大気圏を上昇し続ける。しかしパラパラともはやパンの耳かどうかもわからないくらいの箇所が崩れかかっている。このトーストの運命ももはやこれまでかという時に温度が下がりはじめた。宇宙に出たのだ。もはやトーストは真っ黒な別の物体になり、速度はもはや惰性で進んでいる。

 その静かな宇宙の中で、そのトーストを掴んだものがいた。それは全身が銀色で、大きな頭を持ち、瞳がとても大きい。地球に来ようとした宇宙人である。

 宇宙人はその四角い謎の物体をクンクンと嗅ぎ、やがてガリリと噛んだ。宇宙人は自分の故郷の言葉で「これは食べ物だ」と言い、「美味い」と口に出した。

「こんな美味いものがあるこの星を侵略するのはいけない。いずれ友好関係を結んだほうがよさそうだ」

 宇宙人は背後にある宇宙船にそう呼びかけた。謎の白衣の男たちが何の目的か知らないがトーストを宇宙に飛ばした。それが何の因果か宇宙人に渡り、結果侵略を防いだのである。

 だからどうしたと言われれば何も言えない。しかしこんな空想があってもいいだろう。

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