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神を信じぬ司祭の語り

作者: 蒼あかり

初めてホラーを書いてみました。

でも、ホラーじゃないかもしれません。すみません。

設定はぬるいです。怖くはないので気軽に読んでください。

 とある辺境の地で、赤子が忽然と姿をくらませた。

 その赤子は、辺境の地を治める領主の第一子であった。

 辺境の地を守る騎士、城の家来、領地の民、皆で赤子を探した。

 しかし、一向に行方は知れなかった。


 皆が諦めかけた頃、辺境の境地にある『魔物の森』と呼ばれる森の入り口で、その赤子は見つかった。

 姿が見えなくなってから月日が経っていたにも関わらず、その赤子は衰弱することもなく、いなくなった時よりも大きく、順調に育っている様子が見て取れた。



 その赤子の名は「エリザベート」皆に愛され大切に育てられた。



 エリザベートの母親が今日もまた、司祭である私の元へ来た。

 ほぼ毎日足を運んでは、私にエリザベートの事を話して帰る。


 母親が言うには、魔物の森の入り口で見つかった娘エリザベートは、悪魔に魂を乗っ取られていると言う。

 私は司祭をしている身であるが、正直、神も悪魔も信じてはいない。

 それは人の心が作り出す産物であると思っている。

 故に、悪魔に乗り移られるなどと、にわかには信じられなかった。


 なぜに母親は自分の娘を悪魔だと思い込んでいるのか?


 姿を消す前は普通の子供と同じように、腹が減れば泣き、眠くなっては泣いていた。

 魔物の森の入り口で見つかってから、エリザベートは1度も泣いていないという。

 乳を含ませれば飲み、放っておけば一人で寝るという。人に言わせれば、育てやすい大人しくて良い子だと言う。

 しかし母親とはすごいもので、誰も気が付かないわずかな違いを感じ取っていた。


 エリザベートの瞳の色が・・・赤く染まる時があるという。

 それは本当に一瞬。たぶんエリザベートの心の機微に反応しているらしい。

 子供といえども感情はある。泣かなくても、笑わなくても感情はあるはず。

 その一瞬の感情で、青い瞳は赤く血に染まるような色に変わるらしい。

 最初は気のせいかと思ったらしいが、その血の色を何度か見ているうちに確信へと変わったとのことだ。


 エリザベートを教会に連れてくるように言ったことがある。

 自分の目で確かめたいと。

 母親もそれは何度も試みたようだ。何度も教会のミサや孤児院の慰問等、エリザベートを連れて来ようと思ったらしい。だが、その度に熱を出して家から連れ出すことができないのだという。


 最初の頃、「明日は教会に一緒に行きましょうね」と声をかけていた。

 しかし、その次の日の朝には必ず熱を出し具合が悪くなる。

 ならばと、口にせず突然家を出ようしたこともあったが、いずれも突然の発熱や嘔吐などで、大事を取るために外出が出来なくなってしまう。

 まるで、心の中を読み取っているかのように。


「では司祭である私が邸へ赴きましょう」と、出かけたことがあった。

 しかし、突然の落雷により目の前で木が真っ二つに裂け、行く手を阻まれてしまった。

 まるで、教会や司祭である私との関りを持たぬようにしているようだった。命の危険すら感じたほど。

 そう、神との関りを拒んでいるかのように。



 母親の教会への訪問は何年にも渡り、ずっと続いている。



 エリザベートが一人で歩き始めた頃。

 母親は言った

「あの子はついに生きているものに手を出し始めました。

 最初は小さな蟻でした。蟻の行列を見て、あの子は足で踏みつけていたのです。

 それもただ踏むだけではなく、靴底でこするようにしていたのです。

 その時も目の色が赤く染まっていました」



 エリザベートが言葉を紡ぎ始めた頃。

 母親は言った

「あの子はもう少し大きな生き物に手を出し始めました。

 庭の池で泳ぐ魚を素手で掴むと、そのはらわたを手で握り出し、池で泳ぐ他の魚たちの餌にしていました。

 その時もまた、目の色が赤く染まっていました」



 エリザベートが読み書きを覚え始めた頃。

 母親は言った

「あの子は私たちの身近なものにも手を出すようになりました。

 邸で飼っている犬にネズミ捕りの毒を食べさせたのです。苦しみもがく犬にこれ以上の苦しみを与えぬよう最期の留めをと思った時、あの子は泣いてすがったのです。

 命あるうちは殺さないでくれと。しかし、口からは泡を吹き、目は見開き、息もわずかに痙攣を起こす姿は、たとえ犬であったとしても可哀そうで見てはいられませんでした。

 それでもあの子は泣きながら、目を反らすことなく息が止まるまで見続けていました。

 そしてまた、目の色が血のように赤く染まっていたのです」



 エリザベートが恋を覚え始めた頃。

 母親は言った

「私はあの子に殺されるかもしれません。あの子の奥に潜む悪魔の存在を疑っているのは私だけなのです。皆はあの子に騙され、気づく気配すらありません。

 あの子の、あの、血のように赤い、恋を覚えた女の経血のような生臭い血色に変わる目を知っているのは、そう・・・私だけなのです。

 司祭様、もし私の身に何かあった時は娘を一番に疑ってください。

 私は自分でこの命を絶つことは絶対にありません。

 私は自分の過ちで事故を起こすほど愚か者ではありません。

 私は誰かにこの命を奪われるほどの恨みを買ってもおりません。


 私がここに来なくなったら、あの子を・・・お願いします」




 母親は、あれから教会に顔を出すことはなかった。

 いや、教会に顔を出すことができなくなった。



 エリザベートの母親は、翌日変わり果てた姿で見つかった。


 美しく艶めいていた黒髪は真っ白になっていた。

 白く真珠のような艶と輝きを放っていた肌は、まるで干からびた大地のような色をしており、しわだらけの老婆のようだった。

 その顔は、目を見開き、口は裂けるほどに大きく開け広げ、まるで恐ろしい物を見たかのようにゆがめられていた。


 母親は恐れていた。我が子を。自分が腹を痛めて産んだ子を。

 そして、司祭である私に助けを求めていた。にもかかわらず、助けることができなかった。


「ついに人間にまで手をだしおったか」



 私は司祭。神に仕える者。

 だが、神を信じてはいない。


 しかし、生涯ただ一人愛した女を殺された。愛する女一人守り切ることが出来なかった、クズのような男。

 だからこそ、最後に愛する女が残した言葉を叶えなければ。


 ロザリオを首にかけ聖水と斧を持ち、娘のところに向かう。

 愛する女が命がけで産んでくれた。

 我が娘。


 母の願いを、父が叶えるべく、娘の元へと・・・


「最初で最後の、父としての役目を果たしてやろう。

 待っていろ、エリザベート。

 決して、許しはしない」




最期まで読んでいただき、ありがとうございます。


今後ともよろしくお願いいたします。

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