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44、僕の大切なもの

     * * *



 お兄ちゃん、目が覚めてよかった。

 途中で通信切れちゃったから心配してるよね。


 激しい痛みの中でも思うのはお兄ちゃんのことばかりだった。

 きっとそうでもしないと耐えられなかった。


 だって私の体にあった黒い模様は、指先からどんどん石のように硬くなっていく。今まであった感覚はジワジワとなくなっていって、右手で触れても冷たい感触があるだけだ。


 多分、私はここまでだ。


 呪いのことを聞いた時から覚悟はしていたけど……いざその時となると心細くてしかたない。

 ねえ、お兄ちゃん……ううん、もう自分の気持ちに蓋をしなくてもいいか。もうすぐ死ぬなら、最後くらいは好きにしたい。


「クラウスに……会いたかった……うっ」


 ふふふ、名前で呼んじゃった。ずっとずっと、こんな風に呼びたかった。

 痛みが強くて声を出すのも辛いけど、今しかもう口にできないから。


 ああ、でもクラウスの優しい声で、愛を囁いてほしかったな。

 それが叶わないなら、せめてずっと言えなかった気持ちを伝えたかった。


「クラウス……愛して……る」

「僕も、カリンを愛してる」


 いよいよ最後だ。幻聴まで聞こえてる。

 温かいものに包まれたと思って、そっと目を開けたら今度は幻覚だ。

 あんなに会いたかったクラウスが泣きそうな顔で、私を抱きしめてくれている。


 この透き通った青紫の瞳が大好き。クラウスはタンザナイトって魔石を知ってるかな? 実物には敵わないけど、クラウスの瞳みたいで一番好きな魔石なんだよ。結婚指輪に使いたかったなぁ。

 そうか。愛し合ってるなら、結婚できるね。


「ふふ……じゃぁ、私と……結婚して……ね」


 神様ありがとうございます。おおむね幸せな人生でした。

 まるで愛しい人に抱きしめられたまま、眠るように逝けそうです。

 ああ、痛みも感じなくなったなぁ……最後の最後に幸せな夢が見れた。


 クラウス、愛してる————


 私の意識はそこで途切れた。



     * * *



 なにが大切かって聞かれたら、迷わず『カリン』って答える。

 どんな時でも、どんな場所でも関係ない。

 たとえ世界が滅ぶとしても、僕はカリンを選ぶ。


 あの日、初めて会った時から魂が震えるほど心奪われていた。


 通信が切れて考える間もなく、思い出したばかりの転移魔法を使ってカリンのもとにきた。ウルセルさんの屋敷に転移して、魔力感知でカリンの部屋を調べてもう一度転移する。


 目を開けたら床ににカリンが倒れていた。

 つらそうに綺麗な顔を歪めていて痛ましい。すぐに楽な姿勢をさせようと近づいた。もう肘や膝まで石化が進んでいて、ギリッと奥歯を噛みしめる。


「クラウスに……会いたかった……うっ」


 苦しそうに、だけど切なそうにこぼした言葉に耳を疑った。


 クラウスって、僕……? いつもの『お兄ちゃん』じゃなくて、名前で呼んでくれた?


 心臓がうるさいくらいに跳ねまくる。

 目の前でカリンが苦しんでいるのに、不謹慎極まりない。でもずっとずっと愛しくて焦がれて、でも我慢してきた僕に心すら動かすなというのは無理だ。うん、どうやっても無理。


 それでも痛みでつらそうにしているカリンを、抱き起こそうと膝をついた。なるべくそっとベッドに運ぼうと腕を伸ばしたときだ。


「クラウス……愛して……る」


 すぐに力いっぱい抱きしめたかった。

 聞き間違い? そんなわけない。僕はカリンの言葉は漏らさず聞きとる。どんな呟きも囁きも、唇の動きだけで理解できる。


 僕は、もう我慢しなくていいのか?

 もしかして、カリンも本当の兄妹じゃないと知って気持ちを寄せてくれたのか……?


 もし僕の馬鹿みたいな勘違いだとしても、もう隠したくない。それにカリンを目の前にして確信した。カリンはマリンの生まれ変わりだ。


 僕は生まれ変わる前から、ずっとカリンだけを愛してる。

 それに気付いてしまったら、あふれる想いをこらえるなんてできなかった。


「僕も、カリンを愛してる」


 ふんわりと微笑んだカリンに、やっと想いを伝えられたと優しく抱きしめたい。ヤバい感極まって泣きそうだ。だって今の人生では十七年間ずっと胸に秘めてきたんだ。

 自分の執着具合に呆れるけど、カリンにはもうあきらめてもらおう。あきらめて、僕のものになってもらおう。


 そんなこと考えてたら、カリンは僕にトドメを刺した。


「ふふ……じゃぁ、私と……結婚して……ね」


 ————————っっ!!!!


 頷くだけで、精一杯だった。


 結婚……カリンは僕と結婚してくれるのか!? どうしよう、嬉しすぎて信じられない。これ、僕に都合のいい夢じゃないよね?


 カリンとの明るい未来を実現するためにも、まず今の状況をなんとかしないといけない。ずっとカリンを治すために研究してきた。毎日毎日、考えて考えて考え抜いて、いろいろ試して失敗して。

 もしこれで治せなかったら、カリンのいない世界なんて壊れてしまえばいい。


「スキャン完了、 強制魔力復旧(リターンマジック)


 この青魔法でウロボロスの魔力を消し去るんだ。

 石化がどんどん進んでいく。もう肩の付け根まで石になっていた。まずは心臓の近くから、ウロボロスの魔力を排除していく。


 流し込んだ僕の魔力にウロボロスのねっとりとした魔力をからめて、少しずつ押し流していく。ウロボロスの魔力によって黒く浮き出た模様は粒子となって消えていった。


 残すは石化した腕と足だ。

 ここはガッチリとウロボロスの魔力とカリンの細胞が結びついているようで、なかなか僕の魔力が浸透しない。でも僕の魔力をからめないと、石化を治すことはできない。


「ふぅ……大丈夫だ。黒い模様は消せたんだ。ここは強く絡みついてるだけで、できないわけじゃない」


 自分に言い聞かせるようにして、集中力しなおした。

 石化した部分に手を触れて目を閉じる。ほんの僅かな魔力の流れまで感じ取って、僕の魔力を流し込んだ。

 カリンを包んでいる、淡く青い光がより輝きを増していく。


 もうすぐだ。もうすぐ、治すから。

 僕はカリンを治すことだけに意識を集中した。




 どれくらい魔力を流し続けただろうか。

 朦朧としそうな意識を何度も呼び戻して、青魔法をかけ続けていた。


 あとは指先だけだ。この石化をもとに戻したら、カリンは完治する。

 最後に爪の先にあった、ウロボロスの魔力が黒い粒子となって消えていった。


「……終わった。カリンを治せた……!?」


 黒い模様が残っていないか、石化した部分はすべてもと通りになっているか、何度も確認した。


「やったんだ……カリンを治せた! カリン、カリンッ……!」


 カリンの柔らかく暖かい手を握って、本当にもとに戻ったんんだと実感する。カリンの指先にそっと唇を押し当てて、僕はカリンを寝かせたベッドに突っ伏した。


 魔法陣の使いすぎだ。こんなになるまで使ったことがなくて、限界を見誤ったみたいだ。いや、限界なんて超えてもカリンを治すまでやめなかったけど。



 遠のいていく意識にあらがうことができなかった。




ここまで読んでいただき本当にありがとうございます!

第三章はここまでです。

第四章は最終章になります。引き続き少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。


『面白かった!』『続きが気になる!』

『やっとカリンの呪いが解けた(っω<。 )』


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