ガチャにはお供え物が効く(個人差があります)(女子高生わちゃわちゃ。文芸部員たち)
夏休み。八月に入ったばかり。九月の文化祭のため、寮にはまだまだ帰省していない連中の方が多い。
前期の〆切を越え、印刷・製本も乗り越えた。今は、束の間のひと休み期間。
部室では、宿題をする者、ゲームをする者、読書をする者など、それぞれが自由に過ごしている。
そんなある日の遅い朝。
「ぐぬぬ……来ない……」
「どした、郁?」
自分のスマホに向かい唸り声を上げる後輩に、僕を心配になって声をかけた。
「千代金丸が……来ません……」
「ああ、刀のゲームか……」
「刀は天井ないんだっけ?」
彩が問うた。彼女は、このゲームをしていない。
「この場合は無いですね……」
「つらみの極み」
「ぐっ……資材も底をつきかけてるのにっ」
「今回のはお千代ちゃん居た方が楽だからなぁ」
藍が、のんびりと言った。
藍のスマホ画面も、同じく刀のやつだ。こちらには、きちんと青髪の青年が映っていた。
「いる人はいいなぁ」
「殿ちょは居ないの?」
「居ないねぇ。来たらいいなあ程度で回してはいるけど、深追いはしてない」
「持っている人も、自分のペースで楽しめる人も羨ましい……己の煩悩が憎い……」
郁が、机に突っ伏しながら呻いた。
その姿があまりに可哀想なので、つい、
「あー、じゃああれやれば? お供え物」
口を出してしまった。
「おそなえ……?」
「僕も四年前、漱石先生をお迎えするために羊羹とおしるこ缶を供え続けた」
錬金術的なあれそれで文豪をお呼びするゲームで、中学の時からハマっている。
「あったな。そのお蔭でお前さん、一時期先輩たちから羊羹とおしるこを大量に貰ってたよな」
「好き認定されてたよね。私も好物なのかと思ってたよ」
「それで、来たんですか?」
「来た。更におしるこサンドも増やしてお供えして潜書させたら来た」
「マジか!!」
まあ、一ヶ月くらい続けた先の話なのでアレなのだが。
「お千代ちゃんは沖縄刀だから、沖縄のもの?」
「今からデレステやるから『いとしーさー♡』MV流しとこうか?」
怜が、アプリを起動しながら問う。
「じゃ、ワシ今から自販機行くから、シークヮーサーサイダー買って来てやるよ」
藍が、財布片手に立ち上がった。
「も少し時間くれれば、駅前のスーパー行って、サーターアンダギーでも買ってくるべ。今から僕と彩、駅前行くからさ」
僕が言って、彩もうなずく。
「み、みんな……!」
郁が、感動に打ち震えた。
これら提案ののち、とりあえず今は『いとしーさー♡』MVで一度回し、二時間後にシークヮーサーサイダーとサーターアンダギー、『いとしーさー♡』MV三段重ねで回すことになった。
「俺、がんばりまっす!!」
郁の瞳がキラキラと輝いている。
ああ。助け合いは、善きかな善きかな。
……結果。
郁のもとに、千代金丸は来なかった。
来なかったけれど、寮全体が沖縄モードになった。
自分たちでゴーヤチャンプルーやソーメンチャンプルーを作り、サーターアンダギー、ちんすこう、紅芋タルト(ぜんぶスーパーに売っていた)をデザートに、シークヮーサーサイダーで乾杯をした。
なかなか、沖縄祭りは盛り上がった。
なんくるないさー、いつかくるさー。
郁も、無我の境地に行けたようだった。
夏は、まだまだこれからだ。
END.
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夏休みのわちゃわちゃ。
お供え物は、効いたり効かなかったりします。
物欲センサーを抑える方法が発見されたらノーベル平和賞ものだと個人的に思ってます。