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水琴窟なのよ。水琴窟なの。水琴窟だし。

 死蝋化した女は確実に先ほど話していた女に違いなかった。僕は急いで振り向くとそこに女の姿はなかった。再び水琴窟を覗くとそこにはまだ死蠟化した女はいたままだった。僕は公園の管理事務所に連絡した。管理人が状況を確認し、まもなく警察がきた。僕は警察から事情聴取を受けたが女と話したことは言わなかった。


 そこからしばらくの間は水琴窟のあたりは立ち入り禁止になってしまった。僕はあの女の正体は水琴窟の作者である、楽金鶏朗の娘であると予測したが、死体は比較的最近のモノ(者にするべきか物にするべきかわからなかったので便宜上モノ、とする)であった。


 あの女は何者であったのだろう。そしてあの女は何を言いたかったのだろう。そんな風に考えていたある日、あの女の身元が判明した、というニュースが流れてきた。


 女は例の行方不明になった少女の母親だった。物事を表面的に見ればこうなるだろう。


 少女は父親からひどい目にあっていた。これについて母親がどのように対応していたかはわからない。そんなある日、母親が死んでしまった。父親がしたのか少女がしたのか、それとも病気か自殺か、そのあたりもわからない。何はともあれ少女は母親の遺体を公園の水琴窟に隠した。そして様子を見るために毎日水琴窟を見に来ていた。そんなある日、父親も心不全で亡くなった。少女は父親から解放されるようにどこかへ行った。


 しかし、それだけではおかしい。なぜ少女は失踪前日に公園に長くとどまっていたのか。霊になった母親は僕に何を伝えようとしたのか。本当に父親の死は自然死なのか。僕はあの水琴窟がオカルト雑誌で質問にこたえてくれるスポットである、という記事を目にしたのを思い出した。また、死蠟には呪術的な何かがあることも先日知った。


 僕が立てた仮説はこうである。


 少女は父親から日常的に暴力を振るわれていた。母親も父親から暴力を振るわれていたこともあり、それを止めることをしなかった。ある日、父親が母親を殺してしまった。父親は少女に証拠隠滅を命令した。少女はこれを利用して父親を抹殺できないかと考えた。つまり、水琴窟の怪談と死蠟の呪術性から父親を呪殺しようと考えたのだ。日本では土壌が酸性であることから死体を死蠟にうまくすることは困難であるとされているが、密封された空間なら別である。すなわち、水琴窟の地中にある瓶はそういう環境である。少女は水琴窟の中に母親の遺体を入れ、それが死蠟化するのを待った。毎日毎日。死蠟化が十分に進めば、水琴窟の怪談の出番である。彼女は水琴窟の呪いを死蠟化した母親に降ろし、これを父親にぶつけた。結果として父親は心不全で亡くなった。少女は自由になって一人旅をしているのか、呪いの代償としてあちら側に行ってしまったのか、現在も姿をくらましている。


 僕が見たあの女は母親の霊に水琴窟の呪いが付着したものなのではないか。霊は生きた人間と異なり物理的なものではないため、人格としての境界線が曖昧であり、このようなことも起こりえる。


 しかし、後日に事態は急展開した。彼女が発見されたのである。

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