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花街はほぼまっさら。瓦礫の下でもぞもぞしてるから人は生きてる……はずだ。
ヴァルは好き勝手に花街を吹き飛ばしたあとだというのに鼻歌を歌っていた。この状況でどうやったら上機嫌になれるんだよ。サイコパスかよ。
「どうすんだよ、これ」
一面が瓦解の海と化した花街を指差してそう言った。
「どうするもこうするも、もうやっちゃったんだから仕方ないでしょ」
「仕方ないでしょってお前なあ……」
モクモクとそこかしこで煙が上がり、瓦礫の下からは人が這い出してくる。
「大丈夫よ、心配しなくても。ちゃーんと策は用意してあるから」
「花街はこの町の四分の一くらいは占めてたんだぞ。町の四分の一を吹き飛ばしておいて策もクソもねーだろ。花街で働いてた女の子たちは仕事をなくしただろうし、たとえば両親の借金やなんかで苦しんでた子なんかはもう先がないんだぞ? お前は花街を壊したんじゃない、人の人生を壊したんだ」
「じゃあアンタは年端も行かぬ女の子たちにずーっと花街で働けって言うわけ? いいわよね男はさ。女の苦労ってのがわかってない。すぐに「体で稼げばいい」とかって言い出すんでしょ? じゃなきゃそんなこと言えないだろうしね」
「そういうわけじゃないんだが……」
「そういうわけじゃなくないんだって。女から見たら、さっきのアンタの意見はあんまりにも残酷なんだよ」
冷たい視線でそう言われるとそれ以上言えなくなってしまった。
ヴァルのこんな表情は初めて見る。本当に俺を軽蔑している、そんな眼差しだった。
「悪かったって」
「もういいわよ。どうせ今すぐに考え方を改めることなんてできないだろうし、アンタが「そういうつもり」で言ったわけじゃないってのもわかってるし。でも言い方が悪いからムカつく」
「私怨じゃん……」
「黙ってろ。女の子たちのことは私がなんとかする。今も女の子たちには危害がないように攻撃してたから」
「そんな器用なことできるの? すごくない?」
「女子と男子を見極める目があるから」
「新進気鋭のサーモグラフィ的ななにかか」
「とにかく、今解決すべきなのはハルファ商会の方だから。ほら見て、瓦礫の下から男たちが出てきたわ」
瓦礫の下からワラワラと男たちが出てくる。ゾンビ映画みたいで怖い。しかも男しか出てこないっていうのがまたむさ苦しい。
「お前の仕業かー!」
男の一人が大声を上げると、他の連中も「うおー!」と声を上げた。この無理矢理感が拭えない一体感はなんなんだ。
「さて、全員とっ捕まえてハルファ商会に繋がるやつを探すわよ」
「この後の展開はなんとなく予想できるが」
ヴァルが前に出る。指先から光の糸を無数に放ち、迫りくる男たちをものともせず絡め取っていく。めちゃくちゃ笑顔なところを見ると、おそらく全部コイツがなんとかしてくれるだろう。
五分程度で全部片付いた。まあそうだろうなと思いましたけども。
しかも一人ひとりかなり短いスパンで拷問していく。電気ショック、水攻め、石抱など種類は様々だった。
「石抱って……」
正座の状態で石の板を重ねていくやつだ。この世界にも石抱の文化があったなんてさすがに驚きを隠せない。
そうして一人、それっぽいことを言い出すやつがいた。ガタイがいいモヒカン頭のパンクな男だった。発見が早い。物語が巻きで進んでいく感じがすごいぞ。
「やめてくれ、ハルファ商会のことなら話すから……」
「よーし、それなは話してもらおうか」
「って言いながら石の板を増やすのやめてやれよ」
話すって言ってるじゃん……。
「仕方ないわね」
「最後の一枚は残すのね」
逃亡対策だとしても意地が悪い。町をめちゃくちゃにしたようなやつを前にして逃亡しようと誰が思うだろうか。
「んじゃ話してもらおうかな。この花街を仕切ってたヤツはどこにいるの? ハルファ商会の人間なのよね?」
「その前に約束してくれ。それを喋ったら俺の安全を保証してくれ。俺が喋ったなんてバレたら殺されちまう」
「その時はなんとかしてあげるわ。で、私の質問の答えは?」
男は一つため息をついたあとで話し始めた。
「確かにこの花街を管理してたのはハルファ商会の人間だ。幹部のトーレ=ハンソンだ」
「どこにいるの?」
「保安官だよ、この町のな」
「なるほど、それでか」
顎に指を当て、ヴァルはなにかを考えているようだった。
「なんだ、なにか思い当たる節であったのか?」
「いやね、あんだけ派手にぶっ壊したのに誰も来ないなって」
周囲を見渡してみるが軍人なんかが現れる気配がない。すぐに駆けつけてヴァルに銃を向けてもおかしくない状況ではあるのだが。




