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そうじゃなく光線をやめさせないと本当にガドが死んでしまうかもしれない。
「いやいややめてやれよ」
仕方なく間に割り込んで光線をやめさせる。
俺の脇の下を光線が通過して冷たい汗が背中を伝う。
「俺の腹に穴が空くところだったぞ……」
「前に飛び出してきたアンタが悪い。それに穴が空いたらどうせ私が治すんだからいいじゃない」
「腹に穴が空いたら痛いんだってば……」
あーあー、床にめちゃくちゃ穴空いちゃったじゃん。
「それにこれどうすんだよ。家めちゃくちゃじゃん」
「こうでもしないと口を割らないでしょ。家は元々コイツらのせいでめちゃくちゃなんだから全部コイツのせいにしちゃえば問題なし」
「相変わらずやり方がコスい」
「コスいってなによ。非常に理にかなってるわ」
二人同時にガドに視線を落とす。大柄な体躯に似合わず厳つい顔面が涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた。こりゃ落とすのは苦労しなさそうだ。結果論だが、ヴァルのやり方は間違ってなかったのかもしれない。
「言う気になったか?」
ガドは大きく首を縦に振った。
「じゃあこの屋敷を襲撃させた黒幕は誰だ?」
後ろではヴァルが光線の準備をしている。こうなっては二度と発言拒否はできないだろうな。
ガドは生まれたての子羊のようにガタガタと震えている。ちょっとだけ可愛く見えてくるくらいだ。
まあ可愛く見えてくるはさすがに盛りすぎだが。
「で、お前はどこの組織に属してるんだ?」
「俺はハルファ商会の下請けだ。強引な人さらいなんかをしてる」
「下請けってことはハルファ商会じゃないんだな?」
俺がそう言うとガドは「うっ」と言葉を詰まらせた。
「そうだ。俺はハルファ商会の人間じゃない、ニーズヘッグだ」
やっぱりか、とヴァルとカオを見合わせた。
「花街のあの店もニーズヘッグの物なのか?」
「あれはハルファ商会の物だ。説明は難しいが、基本的にはハルファ商会が計画してニーズヘッグは実行するんだ。俺もニーズヘッグの下っ端だ、細かいことはわからない」
「まあ下っ端なのは見ればわかるからいい」
「そんな言い方……」
「んじゃ次だ。この町にニーズヘッグはどれくらいいるんだ?」
「多くはない。ハルファ商会が経営する花街を存続させるのが、ここにいるニーズヘッグの目的になる。だから花街を守る者と女を攫う者がいればいい。上層部の連中はいないだろうな」
「そもそも上の連中は花街とニーズヘッグの関係を知ってるのか? 下っ端が勝手にやってるとかないか?」
「さすがにそこまではわからない。俺も腕っぷしだけを買われた下っ端なんでな」
「そんなの見てればわかるから言わんでもよろしい」
「そ、そんな言い方……」
「となるとこれ以上コイツを尋問しても意味がなさそうだな。どうする?」
ふとガドを見ると悲しそうな目をしていた。もう突っ込む気力もないらしい。
「それだけわかればいいでしょ」
ヴァルは胸を張っていた。この感じからすると解決方法なんて一つしかなさそうだな。
「また力ずくっすか……」
「わかってないのは犯人だったのよ? 犯人がわかれば私の魔法でダウンよ」
「そうやって規模を大きくしなきゃいいんだが……」
「派手にやってなんぼ、でしょ?」
「なんでちょっと誇らしげなんだよ。迷惑だよ。周囲の人間も俺たちも迷惑してるからもうちょっと気を遣えよ」
「そうと決まればでかけましょう」
「出かけるってどこに」
「花街に決まってるでしょ」
「花街そのものを崩壊させる気じゃあるまいな」
「誰がんなことすんのよ。花街で働いてる女達にも生活ってもんがあるし、無闇矢鱈に力で解決できるわけないなんてのは当然のことでしょ」
「いつも思うけどお前意外と考えてるよな」
逆に意外と考えてない部分とのギャップが激しすぎて信用はできんが。
「世界最強の魔女がこれくらいできなくてどうするのよ」
「世界最強関係ないが。むしろマジで力だけで解決しそうな称号だし他人のこととか考えなさそう。あ、別にヴァレリアさんのこと言ってるわけじゃないんで気にしないでもらっていいですよ」
「いろいろムカつくけどとりあえず花街行くわよ」
「コイツはどうする?」
顎でガドを差す。
「とりあえずこのままで」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ! このままじゃ困る!」
「こんなことしでかしておいてなに言ってんだ」
「トイレとか困るだろ!」
「現実的な問題を突きつけるんじゃない」
でも確かにここで漏らされても困るな。
ということでガドは庭に放置することにした。これなら漏らしても問題ない。そこまで寒くもないので問題ないだろう。




