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このままだと俺たちまで吹き飛ばされかねないので一応フォローしておいた方がよさそうだ。
「どうどう、怒るな怒るな」
「あん?! 怒ってないし厚化粧でもありませんけど?!」
「ははっ、両方合ってるくせに」
両方っていうかガドの発言全部正解だぞ。
「大男の前にオメーをぶっ潰してやろうか」
「悪かったって」
腕を引いて抱きしめる。
「おい! こんなので誤魔化されたりしねーからな!」
「よしよし、今度話聞くから。ここは落ち着いてくれよ」
頭をなで続けると少しずつヴァルの体が弛緩していくような感覚があった。緊張が取れていくようだ。
「こんなので許されるわけ、ないんだから」
あまり男に優しくされた経験がないからだろうか、どうしてかめちゃくちゃちょろい。
「ごめんな」
体を離してガドと向き合った
「が、がんばって!」
ちょろすぎて逆に怖い。この先なにかよくないことが起きそうだ。
が、今は目の前にいる大男に集中しよう。
「お前が俺とやるのか?」
ガドがニヤリと笑った。
「思うところもあるからな」
「あの女のことか。健気だな。好きなのか?」
「大好きだけど?」
「もうなにも訊くまい……」
ガドは両拳を胸の前で構えた。
「そうしてくれるとありがたいな」
大好きだって言った直後で恥ずかしさがやってきた。こうやってなにも訊かずに戦ってくれることに感謝しかない。
剣の柄を握って重心をやや落とす。
生唾を飲み、タイミングを図った。
少しだけガドの肩が揺れた。
次の瞬間、どこからともなく光線が発射された。光線がガドにぶち当たると今まで立っていた場所から消え、屋敷の壁を何枚もぶち抜いてガドがどこかに消えていった。
後ろを振り返るとしたり顔のヴァルが右手を突き出したまま突っ立っていた。
「ドーン」
「ドーンじゃねーが」
俺がやりたいつったじゃん。
「いつまでも動かないアンタらが悪い。時間もないんだしちゃちゃっと済ませないと」
「いやいやそうじゃなくて、俺はノアの件で怒ってるの。わかる? だからなんとかしてこの怒りをどこかにぶつけたかったわけよ」
「アンタのオナ○ニーを見せつけられるなんて拷問はゴメンだと思ったから私がやったわけだけど」
「おい伏せ字」
まったく伏せ字になっておらんが。
「とにかく今回はアンタが悪い。アンタらがいつまで経っても動かないからいけないんだからね」
「お前わかってないと思うから言うけど、ガドからは情報を引き出さなきゃならなかったの。わかる? だから遠くにふっとばしたら困るの。わからないかな? ん?」
「はん、私がそんな馬鹿なことするわけないでしょ」
ヴァルは指を鳴らした。
するとヴァルの手から光の帯が出現、壁の穴の方へと伸びていった。かと思えばぶっ飛んでいった方向からガドが帰ってきた。
「嘘だろ……」
腹には光の帯。帯は当然のようにヴァルの腕から出たものだ。
「嘘じゃないんだなこれが」
ヴァルは「はい」とガドを俺の前に置いた。
「その帯めちゃくちゃ器用に使うね?」
手足みたいにくねくね動くじゃん。全部それでいいじゃん。
「そういうのいいから」
光の帯で拘束されているので暴れることはできないだろう。
しゃがみこんでガドの頬をペシペシと叩く。
「もう顔くらい定期的に洗えよー」
手が顔の油でベタベタになった。これだから身だしなみに気を使わない男は嫌なんだ。
そのへんに落ちていた木の棒で顔や胸やケツを何度か叩いているとようやくガドが目を覚ました。
「くっ……どうなったんだ」
俺の顔を見て落胆したようにため息を吐いた。
「俺は、負けたのか」
「うん、まあ、負けたといえば負けたかな」
俺にじゃないけど。
そんなことはどうでもいい。今はコイツから情報を引き出すのが先だ。
「それじゃあいくつか訊きたいんだが、お前はどこの組織に所属してるんだ?」
ガドは「フッ」と鼻で笑った。
「そんなこと言うと――」
「ドーン」
横から飛び出してくる光線。
「うわー! いてえー!」
大男が涙を流して痛がる。光の帯で拘束されているので痛くてもゴロゴロと地面を転がるしかないので見た目が非常にやかましい。
その転がったところに笑いながら更に光線を浴びせる魔女。
「地獄かよ」
情報の多さよ。どこから突っ込んでいいかわからん。




