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今度はクリムを見た。ため息をつき頬に手を当てている。
「誘拐してきたんだったらなんなの?」
「誘拐して調教するってか。アンタはそれが正しいと思ってやってんのか?」
「正しいとか正しくないとか関係ないんだってば。これが仕事なの。アンタだってその年なんだから仕事くらいしてるでしょうが」
「悪いけど無職なんだ」
自信満々に言い放つが、クリムのため息が更に深くなった。
「もうどうでもいいわ。どうせここで死ぬんだし」
「その大男に殺させるって? たぶん無理だぞ。今の見てただろ。そいつの攻撃は俺には届かないぜ」
シリアスな状況になったということは重々承知だが、どうしても考えてしまうことがあった。
セリフがかっこよすぎるのだ。まさかこんなセリフを言える日が来るとは思わなかった。
これでノアが起きててくれたら最高だったのに。間違いなく俺に惚れ直したはずだ。
尻を叩いてみるが起きる気配はない。素晴らしい弾力の尻である。
「ガド一人ならそうかもね」
クリムが手を挙げると、通路の前から男が二人、後ろから男が二人現れた。
「どっちも男かよ」
「女は男から金を搾り取る仕事をしてるのよ。だからここじゃ、男は女を守るのが仕事なのさ」
「どうでもいいさ。俺はコイツさえ守れればいい」
続けて「今はな」と言った。
「悪いけどそれはさせてあげられない。やりなさい」
男どもが突っ込んでくる。ガドとかいう大男がクリムの側で待ってるのが気がかりだが、アイツの近くにいかなきゃ問題ないだろう。
左胸に手を当てて意識を集中。ノアの獣化能力とヴァルの魔法強化能力を併発させてこの場を切り抜ける。
四人の男たちはおそらくチンピラとしてみたら喧嘩慣れしてる方なんだろう。短剣を持ってるうえに扱いも熟れている。
しかしこっちは獣化と魔法の二段構えである。そうそう捕まってたまるものか。
ノアを抱えたまま男たちを蹴り飛ばして階段へと向かった。従業員らしき男女が立ちふさがるが、今の俺に怖いものなどない。
「そんなんで止まると思ってんのかよ!」
受け付けのばあさんの前を通り、階段を駆け上がって外に出た。後ろからドタドタと足音が聞こえてくるあたり、俺のことを諦めるつもりはないらしい。
花街の道では様々な男女が歩いている。基本的には従業員と客なんだが数がそこそこ多い。そのため、一度紛れてしまえば見つけることはかなり難しいはずだ。俺がノアを抱えているとは言っても見つからなければ目立つこともない。
周囲の人間にはチラチラ見られたが、気にすることなく勢い任せで走り抜けた。
こうして花街を出た俺はヴァルたちがいる宿を目指した。
当然ノアを抱えているせいでかなり目立ったが、こればっかりはどうこうできるものではない。この恥辱は甘んじて受け入れよう。
「ノアにはご褒美をもらわんとな」
目的はそれであった。
ノアを抱きかかえたまま部屋に戻った。そこでは三人の女が自分の胸を揉むというとんでもない空間が広がっていた。
「わかんない。どうやって理解すればいいんだ」
三人の視線が集まった。
「どうやってそんなに胸が大きくなったのかって言われたから」
「揉めば大きくなるってやつ? ウソだろあれ」
「そのへんはわからないけど、やってもやらなくても一緒ならとりあえずやってみるっていう選択肢はありじゃない?」
「たしかに?」
突っ込みたい部分はかなり多い。ガーネットもキャロルも恥ずかしげもなく自分の胸をもみ続けているのだから真意くらい訊きたくなる。
っていうかそんなことは今はどうだっていい。
「おっぱい体操はいいからこれを見てくれ」
そう言いながらノアをベッドに寝かせる。
「これって……アンタ、さすがに犯罪は許容できないわよ?」
「勘違いすんな、俺がやったわけじゃない。むしろ助けたんだ」
「どこから?」
「花街から」
「花街なんて行ったの?!」
「別にいいだろ。行っておくがなにもしてないぞ。ノアが誘拐されたのを目撃したから攫って逃げてきた」
「わかった、花街についての話はおいおい、存分に訊かせてもらうことにするわ」
「聞くような話でもねーけどな」
頭を掻きながらイスに座る。紋章の力が切れたせいでどっと疲れが出てきた。今すぐにでも眠ってしまいそうだ。




