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この町は食べ物の路上販売がかなり多い。街自体もそこそこ大きいからかもしれないが、大通りだけでなくちょっとした裏路地でもなにかが売られているくらいだ。まあ裏路地で売られてる食べ物とか俺は買わないけど。紫色のカエルみたいなやつの串焼きとかさすがに無理だ。
大通りで食べ物を買いながら観光していく。元々この世界の住人じゃないし、一人で出歩くこともあまりないので新鮮だ。
「お兄さんお兄さん」
そんな時、女の人に声をかけられた。
顔を向けると露出が高い女の人がいた。下着の上から太めの帯を纏っているだけみたいな格好。その後ろにも同じような格好をした女の人が三人ほど。全員顔は悪くないしなによりもスタイルが良い。
つまり俺の守備範囲外だ。
「ねえお兄さんウチで遊んでかない?」
「結構です!」
イカ焼きみたいなものを頬張りながら背を向けた。
「そんなこと言わずに」
スルッと、四人の女性が俺の体にまとわりついてくる。
「申し訳ないんですがやめてもらってよろしいですか」
「どうしたの? 体が熱くなってきちゃう?」
色っぽい声。しかも耳元でそんなことを言われたら困ってしまう。
「だが結構です!」
「なんで!?」
「興味! ないんで!」
「私たち、これでもこの町では有名な花女なんだけど……」
「花女ってなんだよ知らねーよ」
「花街で働く女のことよ」
「花街ってなんだ」
「花街は、花街よ。恥ずかしいから言わせないでっ!」
まあこの格好と言い花街という語感と言い、そういうちょっといかがわしい場所なんだろうっていうのはわかってたよ。
つか恥ずかしいってなんだよウブかよ。ちょっとだけ可愛いぞ。
「とにかく離してくれ。花街とか興味ないから」
「今なら安くしとくわよ? あーんなことやこーんな――」
「結構です!」
「だからなんで!?」
「その胸の脂肪に興味がねーからだよ!」
ババっと無理矢理腕を引き剥がして距離を取る。
「もしかして細身の方が好み? でも大丈夫。ちゃんとそういう子も揃えてあるから問題ないわ」
「年は?」
「確か2――」
「結構ですから!」
二十を超えたらそれはもう違うんですよ。俺の理論だから万人に押し付けるつもりは毛頭ないけど。
「んー……もう少し積めば十代の娘もいるけ――」
「なにをしてるんだねさあ行こう今すぐ行こう」
四人とも「マジかよ」って顔で見ている。が、すぐに笑顔になって俺の手を引っ張った。
「それじゃあお一人様ごあんなーい」
「触れるな!」
今度は「やべーヤツと出会っちゃった」みたいに顔を青くしていた。
しかしコイツらもプロだ。そのへんはちゃんとしているらしく、俺を取り囲んだまた路地裏に入っていく。
どんどんと甘い匂いが強くなっていく。まだ昼間だというのに非常に暗く、奥に行けば行くほどに人工的な赤やピンクの明かりが増えていった。人工的と言っても電気ではなく魔法だろう。
路地裏を抜けた先は広い場所に出た。色とりどりの明かり、露出が高い女たち、酔いつぶれてしゃがみ込む男たち、とんでもない場所に迷い込んだことはすぐにわかったが、はやり好奇心には勝てないのだ。
女の一人が俺の顔を見て若干引いていた。頬が緩んでしまったらしい。そりゃ女たちが男たちにまたがってイチャコラしてるのをこれだけ間近で見ちゃえばな、俺もようやく男になれる日が来たと思ってもおかしくない。
ふと、なぜかヴァルの顔を思い出してしまった。思い出したヴァルは両手を上げてめちゃくちゃ怒っている。どうして怒るのかはなんとなくわかる。アイツは「こんないい女が側にいるじゃない!」とか言うに決まってる。だから守備範囲外なんだって。ファールボールがそのままスタンド超えてったら誰も追いかけないって。
でもこういう時は普通ノアの顔を思い出すもんじゃなかろうか。
とにかく、俺は女たちに連れられてある建物に入った。鼻がバカになるんじゃないかと思うような甘ったるい匂い。さすがにこればっかりはなんとかしてほしい。
「なあ、まだか?」
「もうすぐよ」
先頭の女が微笑んだ。なんか含みがあるような笑いなんだよなあ。




