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なにが起きたのか少し怖くなる。が、すぐにまた動き出した。擬音をつけるとしたら「カタカタカタ」だろうか。まるで壊れかけたロボットみたいな動きで俺の方を見る。
「ついに……ついに私の魅力に気がついたのね……」
なんかニヤニヤ笑って気持ち悪いんだけど。
「やっぱり男はデケェ乳に帰ってくんだよなあ!」
「魅力が乳だけって自分で言っちゃってるようなもんじゃん……あと勘違いしないでほしいんだけどお前のことが好きって言ってるわけじゃないからね。お金くれるところが好きって言ってるだけだぞ」
一瞬にしてニヤニヤが消えた。ちゃんと俺が言ってること聞かないで「好き」っていう単語にだけ反応しちゃうから。
「でも俺に好きって言われて反応するってことは、お前もしかして俺に気があんのか?」
カマかけてやったらどういう反応をするだろうか。
「イケメンになってから出直せ」
正面からぶん殴られた気分である。まあなんとなく理解はしてたから特にダメージはない。
でも胸が痛むのはなんでだろう。
「もしかしてダメージ受けてんの? ウケるのはこっちの方なんですけど。っていうかお金もないクソ無職でこれといって特技もない人間性能カッスカスで、なおかつ顔面もそこまででもないヤツが相手にしてもらえると思うのが間違いってもんよ。このクズ野郎」
さすがに最後の追い打ちはいらないと思う。
「なにもそこまで言わなくても……」
「いつも好き勝手言われてるんだからこれくらいいいでしょ」
ヴァルは「ふんっ」とそっぽ向いてしまった。これからはもう少しだけ優しくしてやるか。という気持ちと同時に「今度覚えてろよ」と心の中でつぶやくのだった。俺はそこまで優しくないというのを思い知らせてやらなければならない。
ため息をつきながら立ち上がり、ゆっくりとしたペースで着替えを済ませた。
「どこか行くの?」
「とりあえず町の方でも見て来ようかなと思ってな。美味いものでもあればいいなーって」
「だったら私たちと一緒に行きましょうよ」
「お前荷物持ちさせたいだけだろ」
「女性の荷物持ちができるなんて光栄じゃない? どうせこれから彼女ができるっていうわけでもあるまいし」
「彼女すら作らせてもらえないとかすごい束縛だな」
「いやいや、私が束縛するまでもなくできないって。いやいやいや、ないないない。アンタみたいな男に女なんてできっこないでーす」
「どうしてそう言い切れるんだよああ?」
俺がそう言うと、ヴァルは「ははっ」と鼻で笑った。そんなこともわからないのかと言いたげだ。
「おめーマジで今度凹ますからな」
「凹まされるようなものはありませーん」
「子供か」
ちょっとイラッとしたので素早く部屋を出る。いつも俺が散々バカにしているので怒ったりはしない。俺はあの魔女よりもずっと大人だからな。大人は子供に優しくしないといけないからな。
まあ、大人が子供をバカにするかどうかと言われると難しいところだが。
宿を出てから右を見て左を見て、とりあえず左に行くことにした。
「ああ、やっちまった」
いろいろあってヴァルから金を巻き上げてくるのを忘れてしまった。金がないわけではないので問題はないが、普段から食って飲んでしてるから財布の中身は心もとない。元々の財布の中身でさえヴァルからもらったものなのだから、自分のせいと言えばそれまでだが。
ポケットに手を突っ込んで財布を出す。
「なんだ、ちょっと厚い気がするぞ」
財布を開くと一枚の紙が落ちた。拾い上げて読んでみる。
「無駄遣いは控えるように ヴァレリア」
「最高かよ」
本人を前にしたら間違いなく「使える女」というところだか、今に限っては違う言葉を使うとしよう。
「気が利くけど、少し甘いな」
なんて言いながら町を歩き始めるのだった。




