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責任。その言葉があまりにも重かった。なにをするにも責任感、義務感、使命感はつきものだ。しかしそれらは、俺にとってはあまりにも重すぎるのだ。
「はー、重い。重すぎる」
「重すぎるってなによ! 私は太ってない!」
そう捉えちゃったかー。
「俺が言いたいのはそういうことじゃなかったんだけど訂正すんのもクソ面倒臭いからこのままでいいです」
「面倒くさいってなによ! 私は面倒臭くない!」
「お前本当にすごいね。逆に尊敬するよ」
「ホント? モテる?」
「モテるモテる。クモにもハエにもムカデにもモテるよ」
「虫……?」
「猿とか牛とか馬とかの方がいいか。じゃあそれでいい」
「人間は……?」
「その胸元のデカイボールにすり寄って来る男はいると思うよ」
「私の価値が胸だけっていうのは本当に納得がいかない」
ゆさゆさと抱きついたまま上下に揺れ始める。抵抗の仕方が非常に子供っぽいが、逆にヴァルっぽいと言えばヴァルっぽい。
「やめろやめろ、脂肪の塊が背中で形を変えてるのなんか気持ち悪いんだ。やべ、酔った」
「私の価値を胸だけにしといて上からソレを否定するんじゃねー!」
振動が更に強くなった。
「わーい!」
かと思ったら、いつの間にか起き上がってきたキャロルがあぐらをかいていた俺の脚に乗ってきた。お世辞にも発育が良いとは言えず、身長も割と低めなキャロル。俺の胸元にすっぽりとはまってしまうほどだ。
「おいてめえ鼻息荒くしてんじゃねーぞごるぁ!」
めちゃくちゃ体が揺れる。キャロルが楽しそうなのはいいことだが、こんなところをガーネットやノアに見られたら盛大に勘違いされてしまう。ノアはいないからいいとしても、キャロルが起きてきた以上ガーネットだって――。
横を見たらイスに座ってお茶を飲むガーネットがいた。
「いつから見てた?」
「割と最初から」
「なんで止めないの?」
「楽しそうだったから」
「うおりゃー! 十倍だー!」
更に振動が強くなった。
「界王なんちゃらみたいな言い方すんじゃねーよ」
いつまで続くかと思いきや予想以上に早く終わった。
ヴァルは息を荒くして背中からベッドに倒れ込んだ。エネルギー切れか。
「いくら魔女でも年には勝てねーってことだな」
「年じゃなくても疲れるわ」
「なんで疲れるまでやったんだよ……」
なんで寝っぱなしで親指だけ突き立ててんだよ。お前の感情が理解できねーよ。
「もう終わり?」
キャロルが下から見上げてくる。
「しかたねーな。こうなったら俺が下から思いっきり揺らしてやるしかねーな。じゃあ俺が寝るから、キャロルは俺の腰のあたりに乗ってくれればいいから」
「うんわかった!」
「よーし、がんばるぞー!
「頑張るぞじゃねーぞてめえ」
そんな言葉と共に、仰向けに寝たところに上からパンチが飛んできた。魔法で強化してるのか「ボッ」っという音と共にベッドに突き刺さる。振り上げた拳がベッドにめり込むまで、まったくと言っていいほど軌道が見えなかった。
「危ないとかいうレベルじゃないんだけど」
「次キャロルにイタズラしようとしたら頭潰すわよ」
「自分がイタズラしてもらえないからって――」
拳に魔力が込められていく。
「もうしないから許して」
「わかったらよし」
さすがの俺も頭を飛ばされるのは勘弁願いたい。
「ふざけてないでそろそろ起きるか。ノアは明日には戻ってくるって言ってたし、町をでる準備でもするか」
「そうね。新しい服と下着でも買おうかな。キャロルも行く?」
「うん、行く!」
「エイジはどうする?」
「俺はいいよ。テキトーにそのへんぶらぶらして、なにか欲しい物あったらテキトーに買うから。ってことでお小遣いよろしくな」
「どっちかというとヒモ男よろしくな感じがするわね」
「なんて言いながらもちゃんとお金を渡してくれるから嫌いになれないんだよなあ」
「はいはいわかったわかった。どうせなら「嫌いになれない」じゃなくて「好き」って言って欲しいものだわ」
「言っていいの?」
「悪いことなんてないでしょ。打ち消すことばよりもプラスの言葉の方がいいに決まってるんだから」
「そっか、じゃあ好き」
その瞬間、ヴァルの動きが止まった。




