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言うとは思えないが、一応訊いてみるか。
「で、俺たちを殺そうとしたヤツは誰なんだ?」
「言うと思ってんのか?」
そりゃそうだ。
だがガーネットを裏切るようなヤツだ。どうにかして吐かせることもできるような気はする。
いや、裏切ったのは金のためだから無理か。金持ってないし。
「言わせるには金が必要ってか?」
「ま、そういうことだな。一応こっちもプロなんでな」
「裏切りのプロだろ?」
「そうとも言える」
男は「がっはっはっ」と笑っていた。
「そいつは言わない。交渉なんて無駄だ」
「だろうとは思っていても訊くのか通過儀礼ってもんだろ」
「そういうのはいい。今この場を切り抜けることだけを考えろ」
「切り抜けるって言ったってな……」
連中は武器を構えてるし、なによりも体が重い。複数の紋章を使うとこうなるっていうのがよくわかった。
たぶんだが、紋章一つで十分保つとした場合、五つ使うと二分しか保たない。そういう感じなんだと思う。ヴァルとノアの紋章だけではこうはならなかった。だから、どれくらいの時間で復帰するかもわからないのだ。
そんな状況で話を引き伸ばすのはかなり難しいだろう。できれば回復するまで雑談したいところだ。
「もしも金が出せないんであれば俺はお前を殺す。十秒やろう」
「金があるように見えるか?」
「十」
「おい待て待て、まだ話は終わってないぞ」
「九」
話を聞く気はないってことか。
でもあと数秒で数千万なんて用意できるわけがない。
「おいガーネット」
「大丈夫だ、なんとかなる」
いまでも外ではピーピーとヴァルがやっている。つまり戦力としては期待できない。ノアとキャロルはどこに行ったのかわからない。が、ここに入って来られても困る。紋章を使っているときはノアの居場所がなんとなくわかっていたのだが、こうなるとは想像していなかった。
「五」
カウントが続いている。ガーネットには考えがあるらしいが、それを教えてくれないと俺も対処できない。
「考えがあるなら言えって」
「言わなくてもそのうちわかるからいい。時間がすべてを解決することもある」
「三」
「解決するにしたって心の準備ってもんがあるだろうがよ」
「二」
「準備なんて必要ない」
「一」
会話の間にカウントダウンが入るのシュール過ぎるんだけど。
「ゼロ」
次の瞬間、部屋中に爆発音が響き渡った。一つじゃない。いくつもの小さな爆発音だった。
思わず頭を抑えてうずくまってしまったが、顔を上げればリーダーの男しか残っていなかった。白い煙が充満しているので詳細はわからないがたぶんそうだろう。
「だから大丈夫だと言っただろう」
「な、なにが起きた……?」
ガーネットは不吉な笑みを浮かべていた。最初から予期していたということか。いや違うな。最初からこうするつもりだったんだ。
「この辺で集団が生活できる場所なんて限られている。だから仕掛けておいた」
「最初から?」
「最初から」
やはりガーネットは笑っていた。
一応協力関係にはあるがこいつのことはよくわからない。できれば関わり合いになりたくないタイプの人間だ。
「あとはこいつをなんとかするだけだな」
ガーネットが銃を男に向けた。
「おいおいマジかよ。殺すつもりか?」
「殺さなきゃこっちがやられるんだぞ、そこんところわかってて言ってるんだよな?」
「わかってるけど殺すまでしなくてもいいだろ」
「悪いが殺す」
次の瞬間、ガーネットの銃が火を吹いた。
ドサリと男が地面に落ちる。あっという間の出来事すぎて止めることができなかった。
「お前、マジか……」
床に赤いシミが広がっていく。うつ伏せなので顔は見えないが、死んだのか確認するために仰向けにするつもりはない。
「行くぞ。ここでやることは終わった」
「殺すことなかっただろ」
「こいつらが失敗したってなれば、別の暗殺者がこいつらを殺すことになる。どちらせによ一緒だ。なによりもこれから覚悟しなきゃならないしな」
「覚悟ってなんだよ」
「これからこういう連中ともやり合うことになるわけだしな」
顎で支持され、仕方なく部屋を出ることになった。
ガーネット=サイラーか。冷徹、冷酷、冷血。いつ後ろから撃たれるかわかったものではない。ヴァルにでも対処法を考えてもらうとするか。
部屋を出ると、丁度ノアとキャロルがやってくるところだった。ちょっと汚れてはいるが無事でなによりだ。
ノアが駆けてくるところに両手を広げて待っていたが、予想通り数メートル手前で止まってしまった。
「飛び込んでも良かったのに」
「そういう感じじゃないでしょ。それに、汚れてるし」
スンスンと自分の体の臭いを嗅ぐノア。体臭を気にしてるのか。
「気にすることないのに」
「女ってのはそういう生き物なの。で、そっちは大丈夫だったの?」
「全部倒した。帰るぞ」
正直、これ以上話す気にはなれなかった。今でもピーピーやってるヴァルを回収して早く帰りたい。さっさと眠って、できるだけ今日の記憶を薄めてしまいたいものだ。




