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12

 ゆさゆさと体を揺さぶられ、俺の意識は徐々に浮上していく。


 起きてすぐ目に飛び込んできたのは薄着のヴァルだった。上下下着に上はキャミソールという格好である。ちなみに下は下着のみ。


「またそういう格好する。ノアと張り合っても意味ないぞ」

「年甲斐もないとか言うんでしょうけど、身体的な年齢は二十代のまんまですから」


 胸を張ってヴァルが言った。ここまで乳がデカいとさすがに目がいってしまう。


「お、エイジもようやく私の魅力に気付いた?」

「興味がなくても目に入るわ」

「でもジッと見てるじゃない。やだわー、こうやって男を虜にしちゃうのね」

「うーん、ちょっと違うんだよなあ」

「違うってなにが?」

「乳に興味がない男などこの世に存在しないんだ。まあ一部例外はいるだろうけど」

「だから私をガン見してるんでしょ?」

「それが違う。お前を見てるんじゃない。乳を見てるんだ」

「それってつまり私には興味はないけど乳には興味あるってこと?」

「すごいすごい。よく正解までたどり着いたじゃないか」


 結構な勢いで右ストレートが飛んできたが、そんな気はしていたので軽く避けてやった。


 が、直後に左でビンタされたのはさすがに避けられなかった。コイツ最初から二段構えで攻撃してきやがった。


「私だってそれなりに学習してるのよ」

「今のでよくわかった」


 これからはもう少し気をつけて煽ることにしよう。


「で、なんで起こした?」

「朝だから。朝食、来てるわよ」


 中央のテーブルにはトーストやらスクランブルエッグやらが並べられていた。


「頼んでくれたのか」

「ノアとキャロルがね」


 朝食は全部で五人分ある。あの女の分だとすぐにわかった。


 しかし俺のベッドを見てみるが女はまだ眠っていた。呼吸は安定してるし気持ちよさそうに眠っている。


「とりあえず朝食のあと、あの子をどうするか考えましょう」


 ヴァルが薄着のままテーブルへと向かっていった。仕方なく俺もテーブルへ。直後にノアとキャロルが飲み物のポットを持って部屋に入ってきた。なるほど、朝食はあの二人が運んでくれたってことか。


 みんな揃って朝食を食べた。俺はあまり食欲がなかったが、女性陣は朝から結構な量を食べていた。


 朝食を食べ終わる頃、背後で衣擦れ音が聞こえてきた。


 全員で音がした方を見ると、女が頭を抱えて起き上がってくるところだった。


「起きたか」


 俺がそう言うと、女は「ええ」と小さく言った。


「助けて、くれたんだな」

「あの状況じゃ仕方ないだろ。ほっとくわけにもいかない」


 女は自分の服をまくりあげ、傷があった場所を見て驚いていた。


「治ってる……」

「まあ、いろいろあってな」

「いろいろってなに?」


 俺の口から話すのには戸惑いがある。女の寝込みを襲って唇を奪うなんて紳士のすることじゃないからな。


 いや、結局全部話さなきゃいけないんだけども。


「エイジが説明したくなさそうだから私が言うけど、エイジがアナタにキスして主従の契約を結んだ。で、その副次的作用によって傷が塞がった。それだけよ」


 そう言った後で、ヴァルはコーヒーを一口飲んだ。簡潔な説明でよろしい。


「主従の契約ってなんだ?」

「エイジとキスすると勝手に結ばれるのよ。エイジの命令に従わないと電気が流れる仕組み。ちなみにここにいる女は全員エイジの女ってことになるわね」


 言い方は悪いがまあそういうことになるのか。


「その契約のおかげで私は生きてるのか」

「そういうこと。でも仕方なくやったことだし、まだアナタのことを仲間だと思ってないわ。私だけじゃなく、ここにいる全員がね」


 ヴァルの冷たい瞳が女を見つめていた。


 女は長く細いため息をついてから立ち上がった。下着だけという自分の格好にも驚いていた様子だが、すぐにその格好にも慣れたらしい。


「私はガーネット=サイラー、年は二十。一応人を殺して生計を立てている」

「ふーん、暗殺者ってやつね。で、昨日の夜エイジを殺そうとでもした?」

「殺すつもりはなかった。ただ、脅す目的はあったがな」

「脅す目的は?」

「仲間に入れてもらうため」

「意図がわからないわね」

「そこの男、エージを狙っているやつは確かにいる。だがそれは私じゃない。私もそいつ狙われてるんだ。だから協力し合えればなんとかなるかと思った」

「相手は組織?」

「おそらくな」


 ヴァルは人差し指で眉間をとんとんと叩いた。


「そんな話信じられるわけないでしょ。それにエイジの命が狙われていても、私がいるならなんとかなるでしょ」

「しかし昨日の夜、エージは一人で出歩いて私に背後を取られたぞ?」


 今度は俺が睨まれてしまった。


「アンタねえ……」

「なんかこう、風に当たりたくなっちゃったもんで」

「まあ確かに、エイジが狙われてるとは思いもしなかったわけだし仕方がないけど」

「それで、私は仲間に入れてもらえるのか?」

「そんな急に言われても困るわよ。私たちには私たちの目的があるんだから」

「目的とは?」

「アナタにもかけられた主従の契約を解除する方法を探す旅よ」

「主従の契約を解くために、主人も従者も一緒に旅をするのか? おかしいだろう。お前はそれでいいのか?」


 お前、とは俺のことだろうな。


「俺も面倒事はごめんだし、この契約だって勝手ヴァルがやったことだ。俺は主人だの従者だのに興味はない」

「どういうことだ……?」


 俺が異世界からやってきた、という部分をなんとか端折りつつもヴァルがことの経緯を説明した。酒の勢いで作った魔法を、普通に暮らしていた俺にかけて、そのせいで俺の記憶がなくなったということにした。

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