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 その時だった。俺の足元に何かが落ちてきたのは。


 チュン、というなにかが弾けるような音だった。地面を見ると小さななにかの跡。煙が上がり、それが着弾地点だとわかるまで少しだけ時間がかかった。


「っぶね」


 そうじゃない。


 銃弾は何発か飛んできたが、どうにか当たらずに済んでいる。ヴァルの魔法のおかげなのか、いい感じに弾には当たらなかった。


 ヴァルの障壁を貫通してくるような銃弾だぞ。使い手がどんなやつかわからんが化け物であることには変わりない。それでもヴァルを引っ張りだせばなんとかなるような気はする。化け物には化け物をぶつける。これは世界の鉄則だ。


「だから言ったのに!」


 そこで飛び出してきたのがノアだった。俺の前に立ち臨戦態勢をとった。


 が、途端に銃弾が止んだ。


「お二人さん、たぶんもう大丈夫だと思うわよ」


 今度はヴァルが降りてきた。そのあとで恐る恐るキャロルも降りてきた。


「大丈夫ってなんでだ?」

「最後の一人の気配が消えた。この辺りに人はいないわ」

「あれが最後の一人ってことか」


 つまり、俺を狙撃したやつが他の連中を殺した、と考えるのが自然なのかもしれない。


「問題ないなら歩くか。マーチャックまでどれくらいだ?」

「そうね、歩いて三時間ってところかしら。この人数をぞろぞろ連れて歩くとなると、三時間じゃ済まないかもしれないけどね」

「つっても放っておくわけにもいかないしな」


 馬車の中では事情を知らない一般人が今でも震えていることだろう。見ようによっては俺たちが原因で立ち往生しているようにも見える。実際は誰を狙っていたのかはわからないが、それは受け取る側の問題であって俺たちの思考なんて関係ない。


 とりあえずは事情を説明して一般人を先導して歩き始めた。中には子供もいたので、日が落ちる前にマーチャックに到着するかは未知である。


 ヴァルの異次元バッグのおかげで水や食料などは問題なかった。一般客も俺たちのことを信じてくれていたし、日が暮れる前にはなんとかなるだろう。


 ヴァルとキャロルは昔の話をずっとしているのだが、ノアだけは黙ったまま歩き続けていた。


「どうしたんだ? もしかしてまだ暗殺者のこと気にしてるのか?」


 俺がそう言うと、ノアは前を向いたまま頷いた。


「もしも私を狙っていたんだとしたら、この人たちには迷惑かけたなと思って」

「んー、しかし可能性は限りなく低いんじゃないか? それはお前も気づいてるはずだぞ」


 あの銃弾は俺を狙っていた。ノアを付け狙っていたやつが狙撃手だとすれば、ノアが飛び出してきた瞬間に狙いを変えるはずだ。それをしなかったということは、ノアを監視してたやつと狙撃手は別の人間ということになる。


「でももしも、もしもだけど、私が気づいた「私を監視している人」っていうのが私を監視してるんじゃないとしたら?」

「もしかして監視されてるのが俺ってこと?」

「私もエージも含めて全員っていう可能性は低くないでしょ? 狙ってるとすればアイヴィーとその仲間なんだろうけど」

「狙撃手っていや、やっぱあのスライム一味が先に浮かぶよな」


 迷いの森での一件依頼姿を現していないが、ヴァルがいう通りストーカーなら監視していてもおかしくはない。前回はアイヴィーが囮になってヴァルに銃弾を撃ち込んだ。もう一度アイヴィーが姿を現せばこちらも警戒する。それをわかっているから自分は姿を見せない、と。


「それにしても気持ちがいいやり方じゃないわね。コソコソ隠れてばっかりいて。でもそう考えるとアイヴィーのやり方とはちょっと違うような気がする」

「アイヴィーは主張が激しかったからな。相手に気づいてもらって、自分の存在を認識してもらうことに快感を覚えるタイプっつーかなんつーか」

「今回の狙撃手がアイヴィーある可能性は低いかもしれない」

「どっちにしろ警戒しておいた方がいいな。具体的にどうすればいいかはまったくわからんが」

「だいたいはヴァルがなんとかしてくれるとは思うけどね」


 二人揃ってヴァルの方に振り向いた。俺たちの視線に気づいたヴァルは不機嫌そうに眉根を寄せた。


「なによ、二人で私の顔見て」

「いや、今日も綺麗だなって」

「絶対思ってないやつ」

「それって本当は自分のことが美人だと思ってないから出る言葉なんじゃないか?」

「おめーあとで絶対後悔させてやるからな、覚悟しとけよ」

「もっと大人になれよ、世界最強の魔女なのにそんな言葉使ってたらみんな離れてっちゃうぞ。おーっと、俺がこの世界に来る前からぼっちみたいなもんだったっけ」


 ヴァルの額に青筋が浮き上がっていた。たぶん図星だったんだろう。ちょっとだけ可哀想なことしたな。


「そういう目で私を見るんじゃない!」

 うん、間違いなく図星だったんだな。


 そんなくだらないことを話ながら、俺たちは一般客をつれたままマーチャックに向かった。


 上りも下りもなく平地ばかりだったので、なんとか日が暮れる前には到着することができた。と言っても空は茜空でギリギリという感じではあるが。


 とにかく、なにごともなく到着したことを喜んだ方がいい。今までの経験からするとデカいモンスターに襲われてもおかしくないくらいだ。ノアが言う暗殺者のことは気になるが、とりあえず宿を取ってから考えよう。


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