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500歳からの異世界奴隷召喚~召喚されたと思ったら500歳の魔女が奴隷だった~  作者: 絢野悠
1話 奴隷が幼女だったら受け入れたかもしれません
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 三十分ほど歩いて森の中へ入り、また三十分ほど歩いて洞窟の前にやってきた。森に出来た通路からははずれ、奥まった場所にある。ナイフの切っ先は、洞窟の中の暗闇を指していた。


「あやしすぎるな。誰も調べないのが不思議なくらいのあやしさだ」

「この洞窟のことは知っていても、いわくつきだから誰も近付きたがらないのよ」

「幽霊とか? じゃあ人さらいも取り憑かれてたり?」

「幽霊か。まあそんなところ。人さらいはちゃんと普通に生きてるわ。死んでたり異常があればナイフがそういうふうに反応するから。一応生体反応計の意味合いもあるから」

「めちゃくちゃ便利だな。人探しにはぴったりだ」

「くだらないこと言ってないで行くわよ」

「はーい」

「その気の抜けたような返事やめてくれない?」

「無理だな」

「でしょうね」


 どちらともなく、洞窟へと足を踏み入れた。


 ヴァルが「ライトボール」と、光の玉を生成した。十メートル先くらいまでは余裕で見える。にも関わらずこちら側は眩しくない。さすが魔法。高性能である。


 洞窟は迷う要素が特にない平坦な道だった。それに分岐などもない。ところどころに深い窪みがあるくらいだった。


「ここはね、昔奴隷保管室だったのよ」

「つまり奴隷を収容してたのか。じゃあこの窪みは檻か?」

「そういうこと。一代で巨富を築いた商人がいたのね。その商人は裏で奴隷売買をして、それで巨万の富を得ていたの。でもある日、別の罪で警察に追われてね。全員道連れだって、奴隷を全員焼き殺したの。だからいわくつき。もう二百年も前のことなんだけどね」

「そりゃ、誰も近付きたがらないわな」


 ライトボールの光が少しずつ弱くなっていく。ヴァルは「声を抑えて」と、上体をかがめた。


 そのまま歩いていくと、格子が降りている牢屋があった。


 牢屋の中を照らした。そこには、一人の少女がうずくまっていた。緋色の髪は長くややボリューミーだ。おそらく尻辺りまであるだろう。脂ぎっていて、光を反射するだけの活力すら与えられていない。服はボロボロ、元は白い服だったのだろうが茶色に変色してしまっている。二枚の布を縫い合わせてあるだけの簡素な服。服と呼んでいいのかもあやしかった。身体はヴァルより少し低いくらいか。縮こまっているので小さく見えた。


 少し、少しだが幼女ではないことにがっかりした。


 だが特筆すべきはそこではない。頭に猫の耳のようなものが生えていたのだ。


 光を少女に当てると、もぞもぞと動き出した。


「アンタら、ヤツらの仲間じゃないね。なんか用?」


 目尻が釣り上がり、いかにも気が強そうだ。それは口調にもよく現れている。


「私はちょっとここに用事があってね。アナタはヤツらに囚われた奴隷?」

「そうだよ。私に用事がないなら、さっさと先に行ったらどう? 用事はないんでしょ?」

「そういうわけにもいかない。見つけてしまった以上は放ってもおけないからね」

「どうするつもり?」

「ここから解放してあげる」


 ヴァルがそう言うと、少女は身体を揺らして笑い始めた。声は抑え気味だが、笑っているのは明確だった。


「解放? 解放してどうするの? こんな服で町を歩けって? 金も食べ物も仕事もないまま放り出されてどうしろって? また奴隷商人に捕まるだけよ。同じことの繰り返しだ。だったらこのままでいい。奥にいるヤツらは好きにして構わない。でも私はこのままでいい。このまま、放っておいて」

「お金や服なら――」

「同情なんてクソ喰らえよ。もう誰も信用しない。裏切られるくらいなら、信用なんてしたくない」


 彼女は「もう行きなよ」と、またうずくまってしまった。


 ヴェルは諦めたように進行方向へと身体を向けた。


「なにしてるのエイジ。行きましょう」

「いや、そういうわけにもいかねーな」

「放っておいてあげたら?」

「俺に任せろ」


 格子の前にしゃがみ込むと、少女がもう一度反応を示した。


「お願いだから構わないで」

「一つ提案がある」

「提案なんていいってば……」

「いいや、聞いてもらう。信頼関係が面倒ならそれでいい。じゃあ仕事として引き受ける気はないか?」

「は? なに言ってんの、アンタ」

「手、豆だらけだな。剣か槍でも握ってたか?」


 サッと、彼女が手を隠す。


「俺の奴隷になれ。でもただの奴隷じゃない。俺はアンタに金と仕事をやる。その代わりにアンタは俺を守ってくれよ。生憎俺は戦闘力皆無でさ、これからの旅路が心配なわけだ。それなら信用とかそういうのはいらないだろ? どうだ」


 のそりと起き上がり、真正面から向き合った。顔は傷だらけで、ところどころに土が付着していた。


「そんなんで落とせると思った?」

「ここで死ぬより、また奴隷商人に捕まるより、ここで俺の奴隷になっておいた方がいいんじゃないか?」

「アンタも変態野郎の仲間か。反吐が出るわ」

「そういうことをするつもりはない。でも変態野郎に買われる可能性はなくなるぞ。それにな、本当に死にたいなら自殺しててもおかしくない。でも生きてるってことはそういうことなんじゃないのか」

「はっ、アンタになにがわかるっていうのよ」

「なんもわかんねーよ。でも俺は自分の身が大事なんでな。腕利きの傭兵がいてくれるとなにかと助かるんだわ。それともやっぱり金で買われる方がいいか? 自分の価値を勝手に決められて、他人の尺度で金に換えられる方が好みだって?」


 じっとこちらを見つめ、おそらく十秒以上はそうしていただろう。


「わかった。ずっとこうしてるわけにもいかないし、話に乗ることにする」


 諦めたようにそう言った。てこでも動かない、というのが伝わったのだろうか。


「俺の奴隷になる、と」

「ああ、いいよそれで。でも変なことはしないでよね。奴隷になるってことはアンタを傷つけられないし、命令されたら逆らえない。あとちゃんとした衣食住を提供するって約束して」

「そのへんは任せろ。金を出すのはアイツだから」


 ヴァルを指差すと、彼女は中指を突き立てていた。こっちでも通用するんだな、それ。


「だが一つ条件があるんだ。奴隷化に関することだ」

「いいから言いなさい。面倒くさいのは嫌いよ」

「俺は魔法が使えない。でもちょっとしたことがキッカケで奴隷化だけは使えるんだ。奴隷にする方法は相手とキスをすること」

「接吻か、それくらい別にいいよ。今更って感じもするし」

「それと奴隷の期間だか、正直未定だ。奴隷化を解除する方法を探す旅にでたばかりでな。ちなみに奴隷一号はアイツだ」


 指を差すと、親指を地面に向けたまま握りこぶしを作っていた。


「はあ? 意味わかんない。あの人魔法使いなんでしょ? なんで魔法使える方が奴隷で、なんも出来ない方が主人なの」

「アイツが魔法を暴発させてこうなった。まあ、詳しくは町に戻ったときにでも話す」

「あーはいはい、それでいい」


 彼女が格子に近付いてきた。


「風呂には何日も入ってない。臭くても文句言わないでよね」

「言わない。俺は麻宮映司だ。アンタの名前は?」

「エレノア。エレノア=シュヴァリエよ」


 エレノアが格子に顔を当て、隙間から唇を出してきた。


 どんどんと鼓動が早くなっていく。キスなんて初めてだが、こんなにも緊張するものなのか。今にも心臓が飛び出してしまいそうだ。


 しかし、このまま放置するというわけにもいかない。言い出したのは俺だし、女に恥をかかせるなんて男の恥と言ってもいい。


「大事にするよ」


 一度近付き、深呼吸を一つ。そして触れるように、そっとキスをした。


 柔らかな感触。こんなところにいたはずなのに、ちょっとだけ甘い匂いがした。鼻息がかかって、なんだかくすぐったかった。


 次の瞬間、風が巻き起こった。足元には魔法陣。同時に、首の左側が焼けるように熱くなった。


「あっつ!」


 格子から身体を離し、首を押さえた。ヴェルがすぐに駆け寄って来て「あっ」と声を上げていた。


「それ、紋章が刻まれた痛みだわ。私のときはなかったのに……」


 ヴァルはハッとして、なぜか視線に怨みを込めてきた。


「私のときはキスもなかったし大事にするなんて言葉もなかったのに……!」

「いつの間にか取り出したハンカチを噛むんじゃない。どんだけ悔しいんだよ」

「女として負けた気がする……! こんな貧乳の小娘に……!」

「アンタから見たら全員小娘だわ、アホか。んなこと言ってないでさっさとこれぶった切ってくれよ」


 スッとハンカチを仕舞い、なにかそれっぽい魔法で格子をバラバラに切り裂いた。


「ほら行くわよ」

「機嫌直してくれよ……」


 俺の言葉には耳を貸さず、どんどんと一人で歩いていってしまった。


「あれ、もしかして魔女?」

「よくわかったな」

「西の魔女ヴァレリアは有名だからね」

「そんなに? すげー魔女には見えないけどな」

「いろんな意味で有名。ある場所では暴虐の魔女、ある場所では慈愛の魔女、またある場所では叡智の魔女と呼ばれる。まあ、攻撃とか破壊の魔法ばっかり覚えてるみたいだからなんでも力で解決するみたいだけど」

「あー、ね。そういう感じではあるよね」


 エレノアが俺の方を見た。


「それにしてもアンタが主人か。なかなか面白いね」

「まあ、見てる分には非常に面白いぞ」


 腰から剣のベルトを外し、エレノアに差し出した。


「持てるか? 飯もろくに食ってないだろ?」

「これくらい平気。素人と戦うくらいなら、だけどね」


 思ったよりもエレノアは元気そうだった。

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