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外へ出て、町の出口に向かって歩きはじめた。
「これからラングラン古城ってところに行くのか?」
「そういうことね。でもねえ、結構遠いのよ」
「遠いってどれくらい?」
「一週間歩き続けても着かないと思う。何箇所か町を渡り歩いて、国境を超えていかないとダメね」
「地理的なことはわからないからお前に任せるわ」
「荷馬車にでも乗せてもらってアンドアルで一泊しましょう。そこからマーチャック、王都クローディアって感じになるわね」
「面白おかしいダンジョンとかはないよな?」
「ないわよ。ほぼ一本道」
「ありがたいんだか残念なんだか」
「ありがたいに決まってるでしょ。私は早く呪いを解きたいんだから」
「でも魔力があったからって呪いが解けるのか? 呪いを解く方法とかはきかなくてよかったのか?」
「ルナが言ってた通り、呪いを解くんじゃなくて呪いを壊す方向で考えていいと思うわ。それなら強大な魔力さえあれば呪いは壊せる。誰かの手を借りなくても私一人でなんとかできるわよ」
「そうでもなきゃ五百年も生きてる価値ないしな」
「アンタホントに口悪いわね」
「そうじゃなきゃ俺じゃないだろ。とにかくアンドアルって町に向かうんだな」
「さっき入り口のところで荷馬車を見たから行ってみましょう。アンドアルまで行かなくても、途中まで運んでくれるだけでありがたいわ」
こうして、次の行き先が決まった。本当であればここで呪いを解ければよかったのだが、世の中そう簡単にはできていないらしい。
しかし少しだけホッとしている自分もいた。この空気は嫌いじゃない。ヴァルがいて、ノアがいて、キャロルがいる。
きっとこの度はいつか終わる。それがいつになるかはわからないが、できるだけ長くコイツらと一緒にいたいと思ってしまうのは俺のワガママだろう。だから口に出すことは一生ない。一生ないが、まだ旅を続けられれば今はそれでいい。
「どうしたの、エージ」
ノアとキャロルが顔を覗き込んできた。
「なんでもない。行くぞ」
脚を出した瞬間、大きな石に足を取られた。体が本調子でない俺は上手くバランスを取ることができず倒れ込んでしまった。
「あぶない!」
俺の身体をキャロルが下から支えようとしてくれるのだが、今のキャロルでは俺の体重を支えきれないだろう。
転ぶ瞬間にキャロルを下敷きにしないようにキャロルを抱きかかえて背中から地面に落ちるようにした。
上手く受け身を取った俺だが、思いがけない珍事に見舞われることとなった。
目の前にキャロルの顔。唇には柔らかな感触。左肩は焼けるように熱く、紋章が刻まれたことがわかった。
キャロルの顔が少しずつ離れていった。
「あはは……」
顔を赤くして笑っているキャロル。泣かれたらヤバいと思ったが、思ったよりもキャロルは平気そうだった。
「えっと、すまんな」
「大丈夫大丈夫、事故だから」
そう、事故だ。事故なのだが、誰も「ここでキスをすることになる」とは思わなかっただろう。
立ち上がるとキャロルはノアの後ろに隠れてしまった。そしてノアを見れば顔をしかめている。怒られるかと覚悟を決めた。
が、予想外の言葉を浴びせられることとなった。
「え? ここで?」
うんわかるよ。俺もそう思ってるから。
そんなこんなでキャロルとの契約も終了してしまった。本当にこれでいいのかという疑問はあるが、俺たちは前に進むしかなさそうである。




