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「ということがあったのよ」
「最後に六発殴った、が印象に強すぎる」
むしゃくしゃすると手を出す癖をなんとかした方が良い。
とはいえ、俺がやられて怒ってくれたのは素直に嬉しい。
「いや、だってムカつくじゃない。私の下僕が撃たれたら」
「お前が奴隷だっつーの」
「そういう体で旅してるけど私は認めてないから」
「認めるとか認めないとか関係ないのでは……?」
すでに主従の契約がされてるんだからお前の意見は関係ないと思うが。
「まあいい。野盗たちは全員捕まったのか?」
「アンタがぶっ倒れた日に全員捕まったわよ。少女たちも無事。私たちはこの町の英雄ってことよ。この宿もタダにしてもらったし食事もタダでいたれりつくせりよ」
「で、二人がいないのはなんで?」
「待て待て、私の話は? 私の心配は?」
「いやいいでしょ、お前は元気だし」
「ひでー言い方」
「で、二人は」
「お風呂入ってご飯食べて寝ちゃったわよ。何時だと思ってるの?」
時計を見ると短針が数字の三を差していた。外は暗いので深夜の三時ということだろう。
「こんな時間だったのか。お前は寝なくていいのか?」
「まあ私の場合は起きたら夕方だったからね。昨日は随分動き回っちゃったし」
「もう年だからな」
「黙れや」
「ん? 昨日? つまり俺は一日以上寝てたってこと?」
「気付くのが遅い。でもまあそれくらいに体力を消耗してたってことよ。お腹は?」
「そりゃ減ってるよ、一日中寝てたんだから」
撃たれたところは手で押すと若干痛む。それくらい回復したということだ。
ヴァルは「ちょっと待ってて」と部屋を出て、数分後にオボンを手に戻ってきた。オボンのうえにはいくつかの皿が乗っていた。
「それ食っていいのか」
「はいどうぞ」
お粥に漬物にスープという内容だが、今は油っぽいものを食べる気分ではないのでありがたい。
お粥もスープも湯気が立っているが作るような時間はなかったはずだ。
「魔法って料理も作れるのか?」
「んなわけないでしょ。作っておいて温めたのよ」
「だよな。いただきます」
お粥は卵が入っていてほどよい塩気があった。スープはコンソメっぽい感じで、こちらも味が濃すぎない。漬物は食感がパリパリとしてよく浸かっている。まあなんの漬物かはさすがにわからなかったが。
「そういやさっき作ったって言ったけどお前が作ったのか?」
「そうだけど悪い?」
「はー、お前がねえ」
さっき「食事もタダ」と言っていたのに自分で作った。どういうことだ。それにコイツが料理を作るなんて想像できない。
「悪い? まずかったら下げるんだけど」
「もう全部食べたが」
「なんなのよ……」
「美味かった」
「え? なんて?」
「もう二度と言わない」
布団をかぶって目を閉じた。
「おい! もう一度言え! もう一度言えって!」
無理矢理布団を剥がそうとしてくる。
「やめろって! けが人だぞ!」
「もう治りかけてるでしょうが! 誰が治したと思ってんのよ!」
「もしかして怪我もお前が治したのか」
「他に誰もいないでしょうが」
そう言われてしまったら、顔を隠して寝ようとする俺が完全に悪者である。
もう一度布団から出てヴァルを見た。
「ありがとうな」
ヴァルはきょとんとして、口を半開きのまま「はあ」とだけ言った。
「なにその返事」
「いや、素直にお礼言えるんだなって」
「礼くらい言うわ。怪我のことも飯のことも、あと勝手に外出て迷惑かけたな」
「まあ今更感はあるけどね。私たちがいないとアンタはただの人だし」
「それを言われると情けなさがこみ上げてくる」
「そんな感じだから、気負うことなんて一つもないでしょ」
そう言って彼女は笑った。
普段はギャーギャーとうるさいけど、ちゃんとしていれば頼れる年上の女性なのだ。
まあちゃんとしているってことが難しいんだろうけ。
「体力も落ちてるだろうし今日はもう眠りなさい。それとも眠れない?」
「寝ようとしたらすぐにでも眠れる」
「そう、じゃあさっさと寝て、明日起きてこれからのことを話しましょう」
「わかった。んじゃ眠らせてもらうわ」
「ええ、おやすみなさい」
ヴァルは布団をかけなおし、電気を消して部屋を出ていった。
目を閉じてしばらくすると眠気がやってきた。
考えたいことは山程あるが、それでまた熱と頭痛に襲われても迷惑をかけるだけだ。それならばとりあえず眠ってこれからのことを考えよう。
そう思って眠りについた。




