表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
500歳からの異世界奴隷召喚~召喚されたと思ったら500歳の魔女が奴隷だった~  作者: 絢野悠
5話 簡単に終わってはいけない冒険がここにある
54/143

10 ヴァレリア

 誰にも見つからないようにと森の中を駆け回り、合計六台の荷馬車を見つけた。六台は等間隔で距離を取っていた。


 ここですぐさま野盗を倒すことも考えたのだが、六台の荷馬車ですべてなのかと言われると自信が持てなかった。もしかしたらどこかに隠れているかもしれない。そう思うと今動くのは得策でない。


「で、これからどうする」


 エレノアが馬車を見ながらそう言った。


「どうするって言われてもねえ。今動いても確実性がないからなんとも」

「馬車が動く気配はないし、たぶん移動するとしたら夜だと思う。こっちもそのタイミングで動きたいね」

「相手に動きがあったらこっちも動くのは正解だと思うわ。夜なら松明なりライトボールなりで他の馬車の正確な位置もわかるし」

「じゃあしばらくは森の中で待機って感じね。キャロルは我慢できる?」

「大丈夫! 私だって子供じゃないもの!」


 考えてみればキャロルだって人間の年齢でいけば十代半ばだ。こんなところでワガママを言うほど未熟ではない。


「森で待機するにしてもまだまだ時間があるわね」

「食料はあるしなんとかなるんじゃない? エージには申し訳ないけど」

「買ってきたのを食べるのね、まあそれもいいんじゃない? いつも体調崩してるんだし文句も言えないでしょ」

「エージなら文句の一つでも言うでしょうけどね。本気じゃないけど」

「そうそう。憎まれ口叩くクセに本気でそう思ってないのよね、アイツ。気づかれてないとでも思ってるのかしらね。やだやだ、スカした態度がカッコいいと思ってるガキはこれだから」

「でも嫌いじゃないでしょ?」

「見てる分には面白いからね」

「ホントにそれだけ?」

「どういう意味よ」


 じろりと睨んだヴァレリアだったが、エレノアは相反するように笑みを浮かべていた。


「アンタもエイジも私のことバカにしすぎじゃない? 五百年生きてる大魔女よ?」

「でも五百歳って言うと怒るよね」

「女に年の話をするのは法律で禁じられてるわ」

「それは嘘でしょ……」

「私の中では永久に法律として成り立ってるから」

「ものすごいコンプレックス……でもそこまで気にしてるのになんでフェニックスの羽なんて食べたの?」

「知識欲と永遠の美貌が欲しかったからよ」

「ホントにそれだけ?」

「それ以外あると思う? 私という女はそういう女よ」

「本人が言うならそうなんだろうけど」


 そう言いながらも、エレノアは釈然としないといった顔をしていた。


 ヴァレリアはわずかに動揺していた。誰と話をしても「ヴァレリア様はそういう人だ」と言ってくれる。だから自分でも納得してきた。けれどこのエレノアという少女には一切通用しないのだ。いくら上手く立ち回っても、いずれは彼女にだけは看破されてしまうかもしれない。そんな気持ちを抱えながら小さくため息をついた。


 買い込んできた食料を消費しながら、三人は馬車の動きを見守った。


 夜になり、ヴァレリアは一度上空へと飛び上がった。飛行はできないが跳躍なら可能なのだ。


 森の中でいくつかの明かりが確認できた。その数は八。正確には八つの集団だった。


「どうだった?」

「八つね。昼間に動かなくて正解だった」

「でも馬車八台となるとかなり難しいわね。昼間に見た六台は等間隔の距離をとっていたから、一台一台にかけられる時間は多くない」

「そこは魔法の出番じゃない? 一気に眠らせて終わりって寸法よ」

「そこまで上手くいくかな?」

「私の魔法を舐めないでもらいたいわね。さ、そうと決まったら目の前からガンガン行くわよ」


 馬車に向けて手を伸ばす。


「スリープ」


 馬車の周りにいる野盗たちが一人、また一人と倒れていく。


「ヴァルってすごいんだ。本当に魔女だったんだね」


 キャロルがキラキラした目でヴァレリアを見上げた。


「ふふん、これくらいはできて当たり前なのよ。大魔女だからね」

「自慢はいいけど、とりあえず馬車の中にいる人たちを助けましょう」


 馬車の中には十名ほどの少女が乗せられていた。手枷足枷をつけられ、馬車に固定されているようだった。外にいる野盗同様に眠っているが、これもヴァレリアの魔法を使って起こした。


 少女たちには帰り道を教え、三人は次の馬車へと向かった。


 どの馬車でも同じようにして少女たちを救出し、作業的に野盗を眠らせていった。


「眠ってる時間はどれくらい?」

「二日くらいは眠ってると思うわ」

「二日はエグいね」

「起きてもたぶん上手く動けないと思うし、その間に警察になんとかしてもらいましょう」


 七つの馬車から少女たちを救い出し、最後の一台までやってきた。そこで異様な光景を目の辺りにした。


「ねえ、あれ」


 と、エレノアが指を差した。


「エイジね。起き上がって体調がよくなったから歩き回ったってとこでしょ。アイツならやりかねないわ」

「あの女の子は?」

「あの子がルナよ。なるほど、そういうことか」

「どういうこと?」

「起きたら私たちがいなかったから一人でルナのところに行った。で、なんやかんやでこの状況ってこと」

「なんやかんや……」

「なにがあったかまではわからないもの。それはそうと、さっさと野盗たちをなんとかしないと――」


 その時だった。野盗の一人が銃を取り出し、映司に向けて弾丸を放ったのだ。


 倒れた映司をルナが抱きかかえるが、野盗はまだ銃を向け続けていた。


「ちょーっと待ったー!」


 飛び出さずにはいられなかった。早くしなければ映司の命にも関わる。


 ここで野盗たちを倒すのは簡単だが、一人でも逃げる可能性がある以上は今まで通りの方法でいくのが一番だ。


 それでも腹の虫がおさまらない。


「スリープ」


 野盗を全員眠らせ、その上で一発殴った。


 いや、更に一発、更に一発。合計で六発殴った。そこでようやく、ヴァレリアの気持ちは少しだけ落ち着いたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ