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500歳からの異世界奴隷召喚~召喚されたと思ったら500歳の魔女が奴隷だった~  作者: 絢野悠
1話 奴隷が幼女だったら受け入れたかもしれません
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 ヴァルはナイフを両手で包み、魔力を込めていた。今気付いたが、魔力が見えるようになっているんだな。


「グロウコンパス」


 ナイフを宙に浮かせたかと思えば、そのナイフがぐるぐると周り出す。そして、止まった。


「あっちね。行くわよエイジ」

「そんなにすぐわかるもんなのか」

「方角くらいはね。明確な場所がわかるわけじゃないから、ナイフはこのままね。行くわよ」


 町の中を歩き、来た方向とは反対側へと抜けた。地面が石から土に変わり、人気もどんどんとなくなっていった。


「エイジ、ちょっと言っておきたいんだけどさ」


 歩きながら、ヴァルが低い声で言った。声色も少し堅く感じる。


「なにかあった?」


 だが俺はいつもと変わらずに返した。


「エイジにとってはどうでもいいことかもしれない。でも、町の人にとっては恐怖でしかないのよ。親族は心配でいてもたってもいられない。なのに飄々として、それがカッコいいとでも思ってる?」


 怒られているのはよくわかっている。だがヴァルに対して、畏怖よりも慈愛の方が強く感じられた。自分がどれだけなじられても、彼女はきっと本気で怒ったりしない。他人が傷つけられているから怒っているのだ。


 刹那、頭が割れるように痛くなった。後頭部から側頭部にかけての強烈な激痛。一瞬ではあったが、歩くことができなかった。


「どうしたの? 顔真っ青だけど」


 手の平を突き出した。


「大丈夫」

「大丈夫に見えないから言ってるんでしょうが」


 腰に手を当てて何度か深呼吸した。ヴァルに言っても仕方がないと思っていたので黙っていたが、実はたくさんの疑問があった。その一つが今解明された。


「俺さ、名前は覚えてたんだけど、他の記憶ってところどころないんだよね。で、ちょっとだけ記憶が戻った」

「記憶喪失だったの? なんで早く言わないのよ」

「全部忘れてたわけじゃなかったから。名前は覚えてるし、学校で習ったことなんかも覚えてる。通学路だって思い出せる。でもいくつか思い出せないことがあるんだよ。それをちょっとだけ思い出したわけだ。さっきのヴァルの言葉でさ」


 歩き出してヴァルを追い越す。


「どんなこと? 言いたくなかったらいいけど」

「聞いてもらった方が楽になるかもしれないな」


 ヴァルが横に並ぶ。俺は正面を向いているが、彼女が俺の顔色をうかがっていることは知っていた。


「俺の家族は父と姉と妹だったんだ。母さんは十歳のときに交通事故で死んじまった。母さんが死んだとき、俺の家も一度死んだんだ。学校から帰っても家は暗い。妹はずっと泣いたまま、父さんも姉貴もどんよりとしててな。俺は考えたんだよ。俺がなんとかしなきゃって。そうやって、明るく振る舞うことにしたんだ。楽観的で悩みがないように、心配かけないようにってさ」

「そんなの、子供が考えることじゃないでしょ」

「それでも俺は兄弟で唯一の男だからさ。そうやって頑張ってキャラクターを作って、でもそのうちにそれが普通になったんだ。キャラクターは俺自身になったんだよ。んであるとき、妹に言われたんだ」

「なにを?」

「いつまでもヘラヘラしてんじゃねーって。他人の心配より自分の心配しろって。自己犠牲がカッコいいとでも思ってんのかよって。口が悪いのは今更だったけど、ぐさっと刺さったよ」

「いきなり言われたわけじゃないんでしょう?」

「なんで言われたのかはまだ思い出せない。でもめちゃくちゃキツかったのだけは覚えてる。おかしいな、妹の顔も思い出せないのに、妹が涙を流してるのは思い出せるんだわ」


 やや間があって「ねえ」とヴァルが言った。


「記憶、無理矢理呼び覚ますこともできるわよ。逆に封印することも」


 口には出さないが、やはりコイツは優しい女だ。


「考えさせてくれ。どっちが正しいとか、まだよくわかんねーから」

「やって欲しいときは、頭下げて頼めばやってあげるわ」

「俺には命令できる権利があるから別に。そのときは命令するわ」

「クソ野郎か……」


 そう言いながらも、ヴァルはやはり笑っていた。


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