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大きな屋敷はたしかにあった。壁は蔦で覆われており、非常に年季が入った屋敷だった。だが金属製の門には蔦が絡まっていないので、最近まで使われていたことがうかがえる。
一応門のところから中を覗こうとしてみたが、広い庭に木々が生い茂っていて中はまったくわからない。
「正直行きたくない」
木々のせいだけじゃなく、全体的に暗い感じがする。一度入ったら超常的な力で屋敷から出られないとかそういう感じがビンビン伝わってくるのだ。
別にホラーが嫌いなわけではない。むしろ好きだ。しかしそれはフィクションの話であって、自分で心霊スポットに行きたいとかそいうわけではないのだ。リアルホラーはノーセンキューなのだ。
それでも行かなければならないのだろう。ここで待っていてもなにも変わらなそうだ。
門を押すとキィっと不穏な音がしてあっさりと開いた。門が開かなければ入らなくてもよかったのに。
門をくぐり、木々の間を抜けて入り口の前までやってきた。
ドアノブはところどころ錆びついているのだが、人が握るであろう部分だけはピカピカに光っている。これもまた人の出入りがある証拠だ。
「いやー、マジで行きたくない」
そんなことを言いながら一応ノックをしてみる。返事はない。いい予感しないんだよな、こういう場合って。
ドアノブを捻って、いざ屋敷の中へ。
屋敷の中は非常に暗かった。日が落ちてきているというのが余計な相乗効果を生んでいるらしく、懐中電灯でもなければまともに中を探索できなさそうだ。
しかし、暗いだけでカビ臭いというわけではない。それに外観とは裏腹に結構片付いているようだ。床に埃が溜まっているというわけでもないので、ルナの自宅であるというのも間違いはないのだろう。
「ウチに何用か」
突如、目の前に女の顔が現れた。
「きゃあああああああああああああ!」
思わず大声を上げてしまった。
「うっさいなお前。こっちが叫びたいところだぞ」
パッと、屋敷の中に明かりが灯る。目の前には少女が一人。
「あれ、思ったより小さい」
そう、紛うことなき俺の趣味に合致した少女だった。
髪は長く顔は可愛い。全体的にスマートなシルエットもいい。
「小さいって言うな。で、私の家になんの用だ? 勝手に入ってくるということはそれだけの事情があるということなんだろう?」
「一応ノックはしたんだけどね」
「ノックしてすぐに反応できるわけないだろう。で、何用だ」
「その前にアンタがルナ=アルファってことでいいのか?」
「私こそがルナだ。それがなにか?」
「アンタを頼ってヴァレリアたちとこの町に来たんだよ。でも具合悪くして寝てる間にどっか行っちまってな。町の人に話を聞きながらここにたどり着いたわけだ」
「ヴァレリアが? いやここには来てないぞ」
「マジかよ。じゃあいったいどこに行っちまったんだ……」
ルナの家に行ったとなれば話は早かったのだが、物事はそう簡単には進まないということか。
「そもそもなんで私を頼るんだ? ヴァレリアほどの魔女なら、私を頼らなくても自分でなんとかするだろうに」
「それがそうもいかない事情があってな」
カクカクシカジカ、俺がヴァルに呼び出されたこと、主従契約が切れないこと、ここまでの苦労などを掻い摘んで話した。
「なるほどそうか、それで私のところに」
「まあそういうこと。だからアンタに解呪を頼みたい、ということだな」
「しかしゲロビームは見てみたかったな……」
「そこは割とどうでもいいところな」
「でもヴァレリアがいないと、その主従の呪いがどのようなものかははっきりわからんな」
「そうなんだが、そのヴァルがどこにもいないんだ」
「そもそも、私の家に来たという情報はどこから?」
「北にある酒屋だが」
「酒屋? 酒屋は南にしかないが?」
「は? じゃああれはなんの店なんだ?」
「確かに、先月までは北側にも酒屋はあった。でも主人が急死してしまったから、手つかずのまま空き家になってしまったんだ」
「だから棚にも商品が置いたままだったのか」
「天涯孤独な男だったからな、誰もあの店を管理できないのだ。しかしお前はその主人と話をしたと言う。主人と話をする前にも酒屋には別の主人がいた。怪しいな」
「今の話を聞くとなにもかもか怪しく思えてくるな」
最初のスキンヘッドも、あの老人も主人ではなかった。じゃあなんであの老人は倒れていたのか。どうして老人は主人のフリをしていたのか。
「とりあえず酒屋に行ってみるか」
颯爽と、ルナが屋敷を出ていってしまう。
「ちょちょちょ、戸締まりとかどうすんの」
俺もルナの背中を追いかけて外に出た。すると、ドアからガチンと金属音がした。
「オートロックだと?」
「自動魔法錠だ」
「オートロックでしょ?」
そんなこんなで、俺はルナと共に酒屋に戻ることになった。




