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「木も邪魔だし二人は早いしアンタは魔法の使い方が下手くそだし。よく距離が離れないものだわ」

「文句ばっかり言ってんじゃねーぞ」


 パッと左腕を軽く浮かせた。


「ああああああああああああ! 待って待って待って!」


 必死に胴体にしがみつくヴァル。世界の大魔女が聞いて呆れる。


「お、意外と筋肉質」

「気持ちの切り替えがあまりにも早くて怖い」

「仕方がないわね。私がなんとかしましょう。その前にもう一回私のこと抱えてもらってもいい?」

「なんで?」

「協力するのでお願いしますぅ! このままだとなにもできないのでぇ!」

「はいはいこれでよろしいですか」

「よきにはからえ」

「もう一回離すぞ」

「申し訳ございませんでした」

「わかればいい」


 走りながら、この贅肉たっぷりの魔女を引き寄せるのは一苦労だ。


「あー! また失礼なこと考えてる顔だー!」

「このやり取り無限に続くからやめな? で、なにしてくれんの」

「まあ見てなさいって」


 ヴァルは右手を水平に上げた。淡い光が集まってきて、魔法を使うのだということはわかった。わかったのだが大丈夫なのかが心配だ。


「おいおい無茶すんなって」

「ハッハー! これくらいなら問題ないわよ!」

「なんだよ「ハッハー!」って。欧米かよ」

「くらえええええええええええええ!」

「くらえってなんだよ。誰に対してなんだよ」


 右手から巨大な炎の玉が放たれた。遮ろうとする木々を燃やし、障害物を根こそぎ薙ぎ払う。一般人がいるかもしれないとか考えないのだろうか。


「考えなしにぶっぱなすね」

「考えてるわよ。こうした方が効率がダンチよ」

「今ダンチとか使わねーから。まあでも走りやすくはなったか」

「あと右手出しなさい」

「はい」


 よくわからないがヴァルと握手するような形になった。その瞬間、身体に力がみなぎってくる。


「なにした?」

「魔法の使い方を身体に教えてあげただけよ。魔法の勉強もしてないのに、魔力ばっかり高くなっても使えるわけないし」

「それってもっと早くやるべきだったのでは?」

「必要ないと思ったからよ」

「こんな無能になるだなんて過去のお前は想像もしていなかったんだな。いや、想像できなかった時点で最初から有能ではなかったということかもしれないな。ごめんな」

「やめろやめろ! 気が滅入る! それよりもこれで追いかけやすくなったでしょ。さっさとキャロルを止めないと大変なことになるわよ」

「言われんでもわかっとるわ。速度上げるからしっかり捕まってろよ」

「胴体持ち上げられてるのにどこに掴まれってのよ!」

「行くぜ、限界まで」

「なにそのセリフ……」


 脚を踏み込めば前に進む。風を切る音がさきほどよりもずっとうるさい。流れていく景色は速くなって、自分が風になったとさえ錯覚する。左側でヴァルがなにかを言っているみたいだがよく聞こえない。風圧で顔がぐちゃぐちゃになっており涙が風で流れていくのが見えた。あまりにもブサイクだったのですぐ目をそらすことにした。


 キャロルの足音が止まってから数分後、ノアとキャロルの元へとたどり着いた。すでに戦闘中であり、お互いの身体に僅かな傷が見える。というかキャロル相手によく粘れたな。


「大丈夫か?」

「まあ、なんとか」

「休んでろ。あとは俺とこれがなんとかする」

「これって言わないでよ! っていうか早く降ろしなさいよ!」

「困ったときの武器になってもらわなきゃ困る」

「武器にならないでしょ!」

「化け物には化け物をぶつけるんだよ。常識だろ」

「私は化け物じゃないっつーの!」


 ドシン、ドシンとキャロルが足踏みをした。ヴァルに合わせて会話をしている時間はないということだ。


 ヴァルを降ろしてキャロルと向き合う。


「こうなっちまったのもヴァルのゲロビームのせいだしなんとかしないとな」

「でも殺さないで」

「ノア、お前正気か? いや俺も殺したいわけじゃないんだけど、俺たちがやられたらポータス全滅だぞ」

「足は止まったんだし、あとは私がなんとかするから」

「なんとかってお前……」


 止めようとは思った。けれど、ノアの瞳に気圧されたのだ。


 ノアはゆっくりと、キャロルの前へと歩いていく。


「話を聞いてほしいの」

「話なんてしたくない!」

「じゃあどうしたいの? どうして街の方に向かってるの?」

「わからない! わからないよ……」


 キャロルの肩が徐々に下がってきた。少しずつではあるが興奮が冷めつつあると見ていいだろう。


「正直、私にはアナタの気持ちはわからない」

「当たり前だよ。だってお姉ちゃんは普通に産まれて普通に生きてきたんだもん」

「普通、ねえ。私も普通には生きてないわ」

「楽しそうにお兄ちゃんたちといるじゃん!」

「でも私は元々奴隷よ。産まれは普通かもしれないけど、ビーストという先祖返りのせいで家から追い出されて、奴隷としてこき使われて。そこをアイツらに拾われた。アナタとは違うけれど、おおよそ普通の生き方とは言い難い」

「でも身体は普通だよ! それにお姉ちゃんを知ってる人、お姉ちゃんが知ってるも生きてる! アタシみたいに怖がられることもないし今は楽しそうにしてる!」

「じゃあ、知ってる人がいれば幸せなの? 他の種族と同じ大きさになれば幸せになれるの?」

「そうだよ! パパとママももういない! じじもばばもいない! 友達もいなくなっちゃった! 仲間なんて一人も、一人いなくなっちゃった……」


 ボロボロと大粒の涙を流し、わんわんと泣きはじめてしまった。

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