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 夕食を食べて宿を出た。もう一度キャロルの元に向かうためだ。馬車が夜中の十二時まで運行してるのは非常にありがたい。


「にしてもお前ホント勝手に話し進めるね」

「あのまま放っておくなんてできないでしょ?」

「そりゃそうなんだが、俺に一言あってもよくない?」

「アンタには絶対相談しないから。するならノアとするから」

「そういう女だよなお前は」

「もっと他人を労う精神を養いなさい。人生の先輩からの助言よ」

「先輩っていうかすでにただの骨董品じゃん」

「まだ現役だわ!」

「現役の骨董品だろ。知ってるから。大丈夫だから」

「こんのクソガキ……!」


 馬車から降りて山を登り始めた。休憩所はもうやっていないらしいので、ちゃんと休息用の水は用意してきた。


「ねえ、なんか明るくない?」

「ノアも気付いたか」


 山の真ん中あたりがやけに明るい。一つの大きな光源ではなく、いくつもの松明が動いているような光だ。


「嫌な予感がするな」

「だったら口より先に脚動かす」


 真っ先に駆け出したのはノアだった。そういえば、キャロルが目覚めたときも最初に話しをしようとしてたのもノアだったな。


 真剣な横顔を見ているとちゃちゃ入れる気も失せてくる。彼女がどうしてここまでキャロルに入れ込むのかがわからない。けれどなにも考えず、ただの感傷で動くような少女ではないと思っている。


 ほぼ全力ダッシュで山を駆け上る。そこには男たちと格闘するキャロルの姿があった。しかし男たちはヒュートなので相手にならない。


 かと思いきや結構善戦している。キャロルの身体にロープを巻き付けながらちょこまかと動き回っていた。


 今までよりも早くノアが駆け込み、男の一人をふっ飛ばした。


「過激だな……」


 そのせいなのか、男たちとキャロルとの戦力差が一気に崩れた。


「ああああああああああああああああ!」


 キャロルの豪腕が男三人を同時にふっ飛ばした。振り上げた足に乗っかるように、男が蹴り飛ばされていた。


 そうやって男たちを振り払ったキャロルだが、彼女の動きが収まることはなかった。


「がああああああああああああああ!」


 大きな拳が山を砕く。彼女が踏み込めばがけ崩れが起きる。


「おいヴァルなんとか……って今できねーじゃねーか! 無能か!」

「今キャロルを拘束できても、根本的な問題が解決しなきゃなんにもならないでしょ!」

「根本的な問題ってなに!」

「今キャロルの中で感情が暴走してるのよ。もともとギガントっていうのは感情をコントロールするのが上手くない種族なの。だからこそ他の種族に追い出されちゃったわけなんだけど」

「じゃあどうする!」

「そんなのわかるわけないわよ!」


 こうしているうちにもキャロルは暴走を続け、あろうことか崖の下へと飛び出していってしまった。


「冗談じゃなくこのままだとヤバいな」

「キャロルの方もマズイし、町の方もヤバいし、それを追いかけていったノアも心配よ!」

「あークソっ」


 首と胸に手を当てて二つの刻印を発動。これ使ったあとにダメージあるんだよな。


「あ、ちょっと、人を物みたいに持ち上げないでよ」


 ヴァルを小脇に抱えて二人のあとを追いかける。


「あああああああああああ! せめてお姫さま抱っこにしてよおおおおおおおお!」

「ふざけんなこっちだっていっぱいいっぱいなんだよ!」


 風圧で顔がぐしゃぐしゃになったヤツの言うことに反応してる時間はない。元々刻印の能力ってのは契約した奴隷依存なわけで、俺の身体能力はノア以上になることはたぶんない。その証拠に、万全の状態だったヴァルに魔力で及ばなかった。ヴァルが持ってる刻印の能力を使ってもこの距離を縮めるのには時間がかかる。


 馬車で走った感じだと、町に到着する前には追いつけるはずだ。それでもキャロルを止める時間があるのとは違う。時間を計算している余裕はない。とにかく走って追いつく。考えるのはそれからだ。


 何度か木にぶつかりそうになりながらも森の中を走り続ける。左腕に重りがあるせいで身体が上手く扱えない。


「ちょっと! 今失礼なこと考えたでしょ!」

「黙ってろ舌噛むぞ」

「扱いが雑なのが嫌なの!」

「なんでそんなに元気なんだよ。昼間ゲロビームしてすっきりしたからか?」

「めちゃくちゃ苦しかったんだからね!」

「あーもう、そのへんに放り投げていいか?」

「この速度で放り投げたら見るも無残な姿になっちゃうでしょうが!」

「わかった。わかったから黙ってろって。このままだとノアに追いつけない」


 夜の森というのもあるのだが、ノアもキャロルもまったく見えない。幸いと言っていいのか、キャロルの大きな足音だけは聞こえてきており、音の大きさも変わっていないので距離も離れていないはずだ。逆を言えば音の大きさが変わらないということは、このままでは追いつけないということでもある。


「なに、追いつくつもりで走ってるわけ?」

「じゃなきゃ追いかける意味ないだろ」

「それにしちゃ速度が遅いなーと思ってたのよね。遊んでるのかと思ってたわ」

「おめー全部終わったら洋服全部隠すからな」

「アンタならやりかねないから謝るわ。ごめんなさい」

「素直でよろしい」

「でももうちょっと速度上げてもいいんじゃない?」

「それができたら苦労しないんだっつーの。見てわからんのか」


 キャロルは木々をなぎ倒しながら進むので速度が落ちない。ノアはそのあとを追っているので同じ。しかし俺たちは二人のあとを追っているというわけではない。おそらくこっちだろう、という憶測で走っているのだ。もっと早く飛び出しておけば展開も変わったんだろうが、ヴァルが無能モードだったので仕方がない。

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