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地面は石畳。家は木材や石材を使って作られているようだ。人もそこそこ多く、皆笑顔だった。服装はいかにも中世ヨーロッパという感じで、女性はワンピースのような服装で、男性は大きめのシャツをベルトで無理矢理腰で締めている。
「まずは食料の調達。多少生っぽくても大丈夫よ。魔法の小袋は時間の進み方が遅いから」
「超便利じゃん」
「急に喋り方が頭悪そうになったわね。まあいいわ」
歩き出そうとしたとき、一人の男性が俺たちの進行方向に現れた。息を切らし、顔は青ざめていた。
「ま、魔女さま!」
「トッドじゃない。そんなに急いでどうしたの? あーわかった、私を目の保養にしたくて急いでここまで来たんだ。可愛いんだから」
可愛いって中年オヤジだぞ。いや、そんなこと言ったらヴァルはとんでもないことになるな。なんて言えばいいんだ。ババアかな。
「今失礼なこと考えた?」
「やっぱエスパーなんじゃない?」
「違う。で、トッドはどうして急いでたの?」
「魔女さまにお願いがあって来たんです」
「面倒なことじゃなきゃいいけど、お願いってなに?」
「町の若い娘が何人かいなくなったんです。昨日の夜まではいたんですが、どうやら今朝起きたらいなくなってたそうで……」
「何人いなくなったの?」
「わかってるだけで四人です」
「若い子だけってなると、事件性がありそうね」
口調は冷静だが顔が冷静じゃない。なにかをとんでもなく憎んでいる顔だ。ミミズが張り付けられたような眉間のシワ。口は歪みきっていて奥歯を強く噛んでいるようだった。
「若い子、っていうフレーズにいちいち噛み付くのやめなよ」
「狙うなら私でしょ? 私みたいな美女でしょ?」
「シリアス展開にさせない気概は買うけど、男の半数以上は年下が好きなんだよ。諦めなって」
「つまり中には例外もいる!」
「つまり自分が例外だっていう自覚がある……?」
「あー! お前は私をイライラさせるの大好きだな! そのまま私のすべてを好きになってくれたら文句ないのにな!」
「勢いで告白するのやめてくれ。ヤケになるのはなんとなくわかるけどさ、年齢はどうすることもできないから。あとその胸の脂肪ね。好きな人もいれば嫌いな人もいるから」
「私のなにがいけないっていうのよ!」
俺は彼女の肩に手を置いた。
「その年でそれがわからないから、ダメなんじゃないかな」
彼女は無表情になり固まってしまった。もうちょっとオブラートに包んであげた方がよかったかもしれない。
「その年までわからなかったんだね。頑張って探してみようか」
「もうエイジとは喋らない! トッド! なにか手がかり!」
「は、はい。いなくなった娘の部屋に、これが……」
トッドが一本のナイフを取り出した。
「これが落ちてたの? 落とし物にしては大きくない?」
「エイジはちょっと黙ってて」
「喋らないのでは?」
睨まれたのでお口チャックだ。
「一番部屋が荒れてたんです。たぶん暴れたときに落ちたのかと」
「暴れたってことは、トッドは連れ去られたと思ってるのね?」
「それしか考えられないかと。部屋の窓は閉まっていましたが、鍵はかかっていませんでした」
「ナイフ借りるわね」
ヴァルはナイフを受け取り、表を見て、裏を見て、引き抜いた。「ふむ」と言ってから刃をしまった。
「十中八九連れ去りだわ。このナイフはある組織のメンバーだけが持っている物よ。組織の名前はニーズヘッグ。クスリに人に武器に、いろんなものを秘密裏に売買してる組織ね」
「そんな組織があることを知っていて放っておいたわけだ。国も魔女も大したことねーんだなあ」
お口チャックは二重にしないとダメかもしれない。
「犯罪は国が咎めてなんぼでしょ。私のせいじゃないから」
「はーい」
「まあ、なんだ。本当なら警察に言ってくれっていう感じなんだけど、今回は私がなんとかしましょう。今から追いかければ間に合うと思うし」
「あ、ありがとうございます!」
「この事件が終わったらしばらく家を離れるからね。しっかりしてね」
「大丈夫です。ありがとうございます……!」
この女、頼られて悪い気はしてないな。まあ人間らしいといえば人間らしいか。