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 途中で止まってヴァルを待ち、三人揃って休憩所に入った。


「あら、奇遇ですね」


 そこで顔も見たくない女に出会ってしまった。


「シャルお前……」

「言いたいことはたくさんあると思います。なので今日はこれをお返ししようと思います」


 差し出されたのは二つの財布だった。


「これ俺とヴァルのじゃねーか……」

「はい。馬で買ったのでお返ししようかと」

「馬て」


 一生懸命頑張って働いてますアピールはできる女風を装う裏の顔だったのか。


「勘違いしないで欲しいのですが、私はギャンブル狂いというわけではありませんよ? たまたま買ったら当たっただけなので」

「いくら買ったんだ?」

「総額二百万ほど」

「この短い間で二百万は相当狂ってるだろ」

「たった二百万ですよ?」

「金持ちなのか感覚がおかしいのか判断が難しいな……とにかくこれは返してもらうぞ」


 受け取ってみるがやけに重たい。それに不自然に厚みがある。中身を見ると盗まれたときよりもずっと多い額が入っていた。


「なんか多くない?」

「あ、わかっちゃいました? 借りたお金を返すんですから利子をつけるのは当然じゃないですか」

「いや貸した覚えはないが。それに利子っつーにはあまりにも多いような」


 三倍くらいあるんじゃないのかこれ。


「まあまあ受け取っておいてください。私、エイジさんとの関係を大切にしたいので」

「大切にしたいヤツから財布を盗むのは常軌を逸してるだろ」

「じゃあいりませんか?」

「いります」

「素直でよろしい」


 シャルはニコニコと微笑んでいたが、その微笑みが少しだけ怖かった。あとでなにかふっかけられるんじゃないかと不安になる。


「ヴァルはいいのかこのままで」

「怒る元気もないわよ……」

「あら、ヴァレリアさんはお疲れの様子ですね。こちらのお茶をどうぞ」

「気が利くわね」


 手渡されたお茶を一気に飲み干したヴァル。


「よく知らない人から受け取ったものを簡単に口にするんじゃありません」

「ただのお茶でしょ? 大丈夫よ」

「そうそう、ただのお茶ですから。あ、私これから用事があるのでこれで失礼しますね」


 口に手を当て「おーほっほ」とどこかに行ってしまった。


「お前、具合悪くなったとかないよな?」

「別にないけど」

「あのお茶、変な味とかしなかったか?」

「だからただのお茶だって言ってるじゃない。心配しすぎなのよ。むしろさっきよりも体調が良くなった気さえするわ」

「まあそれならいいんだが……」


 休憩を済ませた俺たちは再度山を登ることにした。傾斜はさきほどと変わらないのだが、俺とノアの速度にヴァルがついてこられるようになった。


「お前魔法とか使ってないよな?」

「使ってないわよ。でも身体の底から力が湧いてくるようなのよ」

「やっぱりあのお茶、なんか入ってたんじゃないのか?」

「別に入っててもいいでしょ。元気になったんだし」

「疑うことを覚えろ。俺より年上なんだから」

「あんまり人と接してこなかったからよくわからないわ」

「引きこもり発言やめろ。天下の魔女だろ」

「ほ、褒めてもなにも出ないわよ?」

「んー、引きこもりのところはスルーかーそうかー」


 大丈夫かコイツ、と思っている間にキャロルの石像まで到着してしまった。しかし観光客は見向きもせずに石像の前を通過していく。


「ここ観光地だよな? 観光名所だよな?」

「本当の観光名所はナモナキ山の頂上から見える壮観な景色なのよ。だからキャロルの石像は副産物的な」

「なんか可哀想だな」

「不憫ではあるのよ。薬を盛られて眠らされて、その間に石像にされたんだから。しきたりとは言っても当時まだ十代前半とかだったわけだしね」

「面識あったのか?」

「話したことくらいはあるわよ。キャロルが覚えてるかまではわからないけど。屈託なく笑ういい子でね、石像にされたのを知って見に来たわ。でも私にはどうすることもできないから、石化を解いてあげることもできなかった」

「無能は可哀想だよな」

「急に私に対して侮蔑を吐くのやめなさいよ」

「癖みたいなもんだ、察しろ」

「そのたびに虐げられるのは私なんだけど」


 それでも石像の前に花やお菓子なんかがお供えしてあるところを見ると、ちょっとだけ心が穏やかになるな。


「さっぱりした顔してるんじゃないわよ。娼館帰りのじじいか」


 そう言いながらヴァルが座り込んでしまった。


「どうした。やっぱ疲れたか」

「暑くなってきたわ……アンタたちは暑くないの?」

「暑くないわけじゃないがしゃがみ込むほどじゃないな」


 ノアがヴァルの額に手を当てる。


「あー、冷たくて気持ちいい……」

「すごい熱。これ、おかしいわよ」

「生まれて間もない子供レベルで熱出るな……」

「冗談言ってる場合じゃないって」

「あ、やば」

「ヤバってなに? え、吐くの?」


 口を抑えて振り向いた。そして顔を突き出す。


「待て待て今ゲロ袋を――」

「ぎょわああああああああああああああ!」


 次の瞬間、ヴァルの口からビームが吐き出された。あと吐く時の言葉としては相応しくない。


「さ、さすがにゲロ袋一つじゃ受け止めきれんわな」

「だから冗談言ってる場合じゃないんだってば!」

「お、おうすまん」


 普段大声を出すことがないノアから怒られてしまった。でも可愛い。

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