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 瓶のコルクはそこまできつくなく、ちょっと力を入れただけで開封できた。一口飲むと止まらなくなり、そのまま一気に飲み干してしまった。


「はいこれ。食べて」


 ノアが差し出した皿には切り分けられてりんごが乗っていた。自分が食べる分じゃなく、俺に食べさせるために剥いていたのか。


「ノア」

「なに?」

「結婚しよう」


 ゴンっと頭に何かがあたった。ベッドに落ちたのは一冊の本だった。


「冗談だ」

「笑えない」


 どうしてこの魔女はここまで冗談が通じないのか。


 ヴァルのことはさておき、ノアが剥いてくれたりんごを口にいれた。うむ、俺が知ってるりんごと遜色ない。これでりんご以外の味がしたらどうしようかと思ってしまった。それはそれでなあなあで受け入れそうではあるが。


「ありがとうな」

「どういたしまして」


 微笑みながら、彼女は皿の上のりんごを一切れつまみ口に運んだ。なるほど、俺のためだけってわけじゃないのね。


 身体の方向を変えてヴァルの方を向く。


「お前はなに読んでんだ?」

「魔導書よ。なんか手がかりがないかと思って」

「自分で書いたやつ?」

「自分で書いたのなら全部頭に入ってるわよ。これはルナが書いた魔導書よ。解呪の専門家が書いた本だから頼りになるかと思ったんだけどねえ」

「頼りにならないのか? 読めないとか?」

「読めないわけじゃないけど、魔法理論の解釈がちょっと私のと違うっていうか。魔法っていうのは根幹が同じでそこからの派生になるから、理解できないっていうのはまずないんだけどね、これはちょっと……」

「俺にはなにがどう違うのかよくわからんが。とにかく読めるけど理解できないってことでいいのか?」

「それに近いわね。その魔法に至るまでの途中式も独特だし、この魔法術式で今まで解呪の魔法を作ってたってなると私にはお手上げね。これを読み解くに必要なのは「この魔導書を読むための知識」であって魔導書を読み解く知識ではないから」

「海の向こうまで行けばルナに会えるんだろ? だったらいいじゃないか」

「アンタのはそれでいいけど、私のはさすがに死活問題でしょ。魔法が自由に使えない魔女ってなによ。ただのグラマラスな女じゃない」

「さりげなく自慢を挟むな。それより明日はキャロルの石像を見に行きたいんだがよろしいか」

「別にいいけどね。山までは専用の馬車も出てるし」

「いいのかよ。さっきは渋ってたくせに」

「アンタが「後悔しても遅い」なんて言うからでしょ。まあ後悔することなんてないとは思うけどね」

「それでも行くんだな」

「私は後悔しない。それだけよ」


 コイツはコイツなりに気を使ってくれてるってことでいいんだろうな。あまりにも不器用だが、それもコイツのいいところなのかもしれない。


 キャロルの石像、近くでみたらどんな感じなんだろうか。年甲斐もなくちょっとだけワクワクする。男はいつでも大きなものには目がない生き物だ。巨大ロボットの等身大模型とか最高にドキドキワクワクする。


「明日石像を見に行くなら、今日はちゃんと身体休めておきなさいよ」


 実はまだ頭が痛いことを見抜かれているのか。そう思うくらいにはタイムリーな発言だ。


「その言葉に甘えさせてもらうかな」


 水が入っていた瓶を床に置き、もう一度布団に潜った。目を閉じるといい感じの浮遊感がやってきた。まだ眠り足りないのかと思いつつ、その浮遊感に身を任せる。それだけで俺は夢の中へと落ちていく。あの幸せだった現実世界の夢を、もう一度と願いながら眠るのだった。

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