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 噴水を横目に歩みを進めトリキアの滝に到着した。が、結局ここも観光名所なので人が多い。


 しかし観光名所というだけあって、遠目に見てもすごい。小さい滝かと思いきや身長の何倍もある滝がズラッと並んでいる。ただの滝ではなく円形になっているので不思議な感じだ。


「どこもかしこも人、人、人。なんなのよホント」


 結局ここも素通りしそうな気配だ。


「人がいるのは仕方ないだろ。観光くらい好きにさせてやれよ」

「アンタだって人がいなきゃ観光するでしょ?」

「するかしないかで言えばすると思う」

「ほら見なさい。人がいる、人がいないで判断してるでしょう? 考え方は私と同じなのよ」

「わかった。わかったから脂肪の塊を全面に押し出してドヤ顔するんじゃない」


 頭はいいんだとは思うが基本的に残念なんだよな。


「なによその顔。残念な美人を見るような目をしないでちょうだい」

「美人は外さないのかよ。まあ美人だとは思うが」

「これは……恋?」

「展開が早い上に俺は外見的にどちらかといったら美人という意味で言ったんだ。抽象的な言葉を勝手に体よく解釈するんじゃない」

「素直じゃないわねぇ。もっと心を裸にしてぶつかってきなさい」

「もし心を裸にしてぶつかってったらどうなる?」

「当然あしらう」

「なにをさせてーんだよ……」

「アンタを惚れさせてこっぴどくフリたい」

「最低の思考だよホント。さっさと森を出よう、俺たちには明確な目的があるわけだしな」


 そう言って歩き出そうとしたが、ノアがその場を動こうとしなかった。


「どうした?」

「あれ、なんだろうなと思って」


 ノアが指差したのは滝の上方に見える小さな突起物だった。滝よりもずっと向こうにあるように見えるが、この距離で見えるということはかなりの大きさなんじゃなかろうか。


「ああ、あれはキャロルの石像よ。ポータス国境都市に近い名もなき山に祀られてる」

「キャロルって誰だ?」

「あの石像の名前。ギガントだから大きいのは当たり前なんだけど、キャロルはギガントの中でもおそらく数百年に一人というレベルの大きさだったの」

「そいつが死んだ後で石像を造ったってことか」

「いや、あれはキャロル自身よ」

「いきなり狂気的な話に発展したな」

「しきたりみたいなものよ。あまりにも大きすぎるギガントは厄災を呼ぶと言われていてね、実際大きいせいでいろんなものを壊してしまうし、ギガント以外の種族も迷惑してしまうのよ」

「そのキャロルって何歳くらいだったんだ?」

「たしか十歳ちょっとじゃなかったかしら。私もよく知らないのよ。大体三百年前くらいだった気がするけど」

「お前の魔法で小さくするとかできなかったのか。いや、できてもしないな」

「できたらしてるわ! 人の人格を勝手に作り上げるのやめなさいよ!」

「じゃあその時は雑魚だったわけだ」

「雑魚って言うのやめなさい! 正直今でも物を小さくするのとかはできないわよ。そういう細々したの苦手だから」

「雑魚じゃん」

「ぶっ飛ばしてー……」

「キャロルはあのまま眠らされてるわけか。なんか可哀想だな」

「誰だって可哀想だと思うわよ。でも仕方ないのよ、ギガントの掟だから。ギガントという大きな体を持つ種族だからこそ、その大きいという部分に誓約を持たされた」

「この世界も楽観的なことばっかりじゃねーんだな」


 それは奴隷の件でわかってはいたが、たぶんこれからも「この世界の理不尽」に何度も遭遇することになるんだろう。ある程度は覚悟しておかなきゃいけない。例えば理不尽に感じて憤っても、それがこの世界の真理だと言われてしまえば俺はそれを受け入れるしかないのだ。


「なんともならないの?」


 と、ノアがそう言った。


「なんともならないわよ。たぶんね。あの石像だってキャロルが了解して石像になったわけじゃない。推測の域をでないけれど、眠らせて、強制的に石像にしたんだと思う。そういう世界なのよ、ギガント族っていうのはね」

「なんとか、してあげたいわね」

「手段ができたら考えてあげてもいいけどね。そのためにも私の呪いを解くことを優先して頂戴」

「呪いが解けたらなんとかできそう?」

「わからないけど」

「無責任ね」

「なにもしないよりましでしょ。さっさと行くわよ。アンドアルまで行けばいいわけだから、そんなに時間もかからないでしょう」


 ヴァルがノアの背中を何度か叩いた。ノアはため息を一つついたが「その時はお願いね」とだけ言った。


 ノアはキャロルに感傷を抱いたのだろうか。強制的になにかに捕らえられ、自分の意思とは関係ない扱いを受けること。奴隷にさせられて閉じ込められた、自分の境遇とダブって見えてしまったのだろうか。だが、それを聞くだけの勇気は俺にはない。知ったところで意味もない。


 森を抜けて街道を歩き、難なくポータスへとやってきた。ここまでなにもないと逆に怖い。後から雪崩のようにイベントが乱立する可能性が非常に高いのだ。いうなれば今は物語の中だるみ。ここからばーっといろんなことが起きるに違いない。


「いや中だるみするの早くない?」

「一人でなに言ってるの? とりあえず港に行って船の予約をするわ。アナタたちは二人で宿の予約をお願い」

「わかった。暴漢と戦闘になるなんてことは避けてくれよ。今のお前は割とポンコツだから」

「ポンコツじゃなくても逃げるわよ。別に私がポンコツというわけではないけど。とにかくそっちは任せたわよ」


 ヴァルはスタスタと一人で港の方へと歩いていってしまった。アイツが仕切ってくれるので楽なのは間違いないのだが、無理をしていてもわかりづらくて扱いに困る。早めに宿を見つけてヴァルの方に行くか。

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