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 毛布をかけて一息つく。買ってきたコーヒーを入れ、ノアとテーブルを挟んでため息をついた。


「あの銃弾、相当厄介な代物だったみたいだな」

「今となっては確かめようがないけれど、ね」

「ヴァルの魔力を吸い取ったとかそういう感じじゃないのか?」

「この様子を見る限りだと、その程度で済んでるとは思えない。魔力がどうとかっていうのは副次的な作用だとすら思える」

「副次的作用?」

「呪いの類という考え方が自然だと思う。魔法の総量を減らしつつ呪いをかけられた。そう考えれば納得がいく」

「例えばどんな呪いだ」

「魔法を使うことによって引き起こされるなんらかの呪い、とか? さすがに呪いの種類まではわからないわ」

「まあ魔法を使う、ないし魔力を消費することで起動するんだとしたら納得はいくな」

「正確には一定量使うと、みたいな感じだと思う。霧を晴らすところまでは普通だったし、それを長時間使ってたからあんなふうになった」


 呪いの可能性は十分あり得る。しかし呪いだとわかっても、そもそもヴァルは解呪が苦手だ。解呪ができても魔力にブレーキがかかるなら同じこと。


「あー、そういうことか」

「なに? 一人で納得して」

「コイツ、その可能性に気がついてたな」


 大きな胸を上下させて眠るヴァルを見た。


「気がついてて普通に活動してた?」

「わけわかんないプライドの塊なんだって、この女は。気がついてたけど、解呪できないって言い出せなかったんだ」

「さすがにそこまでバカじゃないでしょ。バカじゃ……」

「言いよどむんじゃない。もしかしたら心配かけたくなかっただけかもしれないけどな。本人に訊いてみなきゃわからない」

「本人に訊いてもわからないような気がするけどね」

「そうなっちゃうよなあ」

「まず体力を回復してもらって、喋れるようにならないとなにも進展しないんだけどね」

「飯は食えるらしいから、なんとか飯を食わせて水飲ませて、起き上がれるようになるまでは介護だな」

「何日ここに泊まることになるんだか」


 二人してため息をついてしまった。


「とりあえず、コイツが起きなきゃ始まらないな」

「ここに何日も泊まるなら主人に話をしないと。それに一日ごとに料金も払わなきゃいけないだろうし」

「そうだな。つっても俺財布ないし、ここはヴァレリア様の財布でも拝借しますか」

「ホントクズに見えてきた」

「そういうのやめて」


 ヴァレリアの荷物を探る。よくわかんない道具は割と少なく、主に入っていたのは化粧道具とかそんなのばかりだった。


 しかし、荷物を探っても入っていなかった。


 続いて着ていた服をひっくり返してみたがなにも出ない。


「なあノア。お前いまいくら持ってる?」

「五万くらいかな」

「ここの宿代ってどれくらい?」

「三人で一晩一万ちょっと?」

「食事も含めれば結構ヤバイかもしれんな……」

「もしかしてヴァルの財布もないの?」

「まあ、そういうことかな」

「あんまり言いたくないんだけど、財布落としたんじゃないんじゃない?」

「たぶんだけど同じこと考えてるな」


 おそらく、いや間違いなく、俺たちの財布は盗まれた。誰にってそりゃ決まってる。


「シャル……あのクソ女……」


 助けてもらっておいてそそくさ消えたのはこれが原因か。


 頭を抱えてしまうがこうしていても始まらない。ヴァルの体調が整うまで、俺たちはなんとか路銀を稼がなければいけないのだ。


「うん、よし、そうしよう」

「なにがそうしよう?」

「風呂に入って寝よう。考えるのは明日だ。三日くらいはなんとかなるんだし、なんとかなるだろ」

「本気で言ってる?」

「うむ。それじゃあ風呂に入ってくる」

「そんなことだろうと思った。いってらっしゃい」


 備え付けのタオルを持って部屋を出ることにした。


 不安がないわけではないが、不安がっているだけではなにも生まれないのだ。なにか思いつくまでは普段どおり振る舞う。これに限る。だいたいの人はそれができないからいつまでもずっと悩むのだ。


 まあ、全く悩まないのも問題だが。


 とりあえず朝になったら考えよう。日雇いでもいいから仕事も見つけないといけない。異世界、厳しい世界だな。

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