10
毛布をかけて一息つく。買ってきたコーヒーを入れ、ノアとテーブルを挟んでため息をついた。
「あの銃弾、相当厄介な代物だったみたいだな」
「今となっては確かめようがないけれど、ね」
「ヴァルの魔力を吸い取ったとかそういう感じじゃないのか?」
「この様子を見る限りだと、その程度で済んでるとは思えない。魔力がどうとかっていうのは副次的な作用だとすら思える」
「副次的作用?」
「呪いの類という考え方が自然だと思う。魔法の総量を減らしつつ呪いをかけられた。そう考えれば納得がいく」
「例えばどんな呪いだ」
「魔法を使うことによって引き起こされるなんらかの呪い、とか? さすがに呪いの種類まではわからないわ」
「まあ魔法を使う、ないし魔力を消費することで起動するんだとしたら納得はいくな」
「正確には一定量使うと、みたいな感じだと思う。霧を晴らすところまでは普通だったし、それを長時間使ってたからあんなふうになった」
呪いの可能性は十分あり得る。しかし呪いだとわかっても、そもそもヴァルは解呪が苦手だ。解呪ができても魔力にブレーキがかかるなら同じこと。
「あー、そういうことか」
「なに? 一人で納得して」
「コイツ、その可能性に気がついてたな」
大きな胸を上下させて眠るヴァルを見た。
「気がついてて普通に活動してた?」
「わけわかんないプライドの塊なんだって、この女は。気がついてたけど、解呪できないって言い出せなかったんだ」
「さすがにそこまでバカじゃないでしょ。バカじゃ……」
「言いよどむんじゃない。もしかしたら心配かけたくなかっただけかもしれないけどな。本人に訊いてみなきゃわからない」
「本人に訊いてもわからないような気がするけどね」
「そうなっちゃうよなあ」
「まず体力を回復してもらって、喋れるようにならないとなにも進展しないんだけどね」
「飯は食えるらしいから、なんとか飯を食わせて水飲ませて、起き上がれるようになるまでは介護だな」
「何日ここに泊まることになるんだか」
二人してため息をついてしまった。
「とりあえず、コイツが起きなきゃ始まらないな」
「ここに何日も泊まるなら主人に話をしないと。それに一日ごとに料金も払わなきゃいけないだろうし」
「そうだな。つっても俺財布ないし、ここはヴァレリア様の財布でも拝借しますか」
「ホントクズに見えてきた」
「そういうのやめて」
ヴァレリアの荷物を探る。よくわかんない道具は割と少なく、主に入っていたのは化粧道具とかそんなのばかりだった。
しかし、荷物を探っても入っていなかった。
続いて着ていた服をひっくり返してみたがなにも出ない。
「なあノア。お前いまいくら持ってる?」
「五万くらいかな」
「ここの宿代ってどれくらい?」
「三人で一晩一万ちょっと?」
「食事も含めれば結構ヤバイかもしれんな……」
「もしかしてヴァルの財布もないの?」
「まあ、そういうことかな」
「あんまり言いたくないんだけど、財布落としたんじゃないんじゃない?」
「たぶんだけど同じこと考えてるな」
おそらく、いや間違いなく、俺たちの財布は盗まれた。誰にってそりゃ決まってる。
「シャル……あのクソ女……」
助けてもらっておいてそそくさ消えたのはこれが原因か。
頭を抱えてしまうがこうしていても始まらない。ヴァルの体調が整うまで、俺たちはなんとか路銀を稼がなければいけないのだ。
「うん、よし、そうしよう」
「なにがそうしよう?」
「風呂に入って寝よう。考えるのは明日だ。三日くらいはなんとかなるんだし、なんとかなるだろ」
「本気で言ってる?」
「うむ。それじゃあ風呂に入ってくる」
「そんなことだろうと思った。いってらっしゃい」
備え付けのタオルを持って部屋を出ることにした。
不安がないわけではないが、不安がっているだけではなにも生まれないのだ。なにか思いつくまでは普段どおり振る舞う。これに限る。だいたいの人はそれができないからいつまでもずっと悩むのだ。
まあ、全く悩まないのも問題だが。
とりあえず朝になったら考えよう。日雇いでもいいから仕事も見つけないといけない。異世界、厳しい世界だな。




