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 男の方は目隠しをしてロープで手足を縛り洞窟の中に放置した。それから、男に聞かれないようにと洞窟の外で話をすることになった。


 シャルからはにわかには信じられないような話をされた。


 シャルが証券取引の仕事をしているのは本当らしい。しかし仕事で失敗をし、そのせいで悪いやつらに顎で使われることになった。元々きな臭い仕事ではあったのだが、事業拡大のためには仕方なかった。そして、失敗した。


「最初から仕組まれてたんじゃねーかな、それ」

「たぶん、そうだと思います。おかしいと思ったときにはもう遅くて、気がついたときには……」

「難しい話になってきたな。男も倒しちゃったし、このままってわけにもいかないよな」


 そうなのだ。結局ここで男を倒しても、黒幕を倒さなければなんの意味もないのだ。男を生かしておけばシャルが危険にさらされる。殺しても同じ。


「どう、するかなあ」


 自分でやっておいてなんだが後先考えなさすぎた。俺だって少しは格好つけたいときがあるのだ。


「仕事を持ちかけてきたのはどんなやつだ?」

「ブルーバード商会という商社です。土地の売買を担当してたんですが、先方と話し合いが食い違ってしまって損害が出たと言われました。一生許さない、と」

「その先方ってのもグルなんだろうなあ」

「だと思います」

「このままだとずっと追いかけられることになると思うんだが、これからどうするんだ?」

「正直わかりません。でも拠点という拠点はないようなものなので、点々と渡り歩いていればなんとかなるかと」

「ならないんじゃねーかな。商社ってのも嘘だろうし、先方もグルとなればコネもそこそこあるはずだ。人海戦術でもすぐ捕まっちまうぞ」

「いえ、なんとかしてみせます」

「してみせますってお前……」

「大丈夫ですよ。私、こう見えて強いんですよ」


 微笑んではいるが力強さはまったく感じられなかった。


「それにエイジさんたちがどうこうできるような問題でもなさそうですし。ほら、ヴァレリアさんもあんな感じですし」


 ヴァルはノアの膝枕されながらもダウンしている。


「確かにそうなんだが……」

「エイジさんは自分のことを心配した方がいいと思いますよ。それでは、私はこれで失礼します。助けて頂いてありがとうございました」


 シャルは礼儀正しくお辞儀をし、文句を言う暇もなくどこかに行ってしまった。


「え? なにもないの? この感じだと新しい奴隷になるのでは?」


 そんなことを言ってもなにも始まらない。だってシャルの姿はもうないんだから。


「助け損じゃねーか……」

「損得考えて人助けとは、思った以上にゲスなのね」

「うるさい」


 ノアは知らん顔してヴァルの頭をなでていた。


「仕方ない。とりあえず山を降りてから考えるか。ノア、どっちがおぶってく?」

「私しかいないでしょう」

「だよね。じゃあお願いするわ」


 ビースト、すごく頼りになる。


 こうして事なきを得て下山することになった。霧を晴らすことができないので苦労はするだろうが、さっきよりは霧が薄くなっているのでなんとかなるだろう。


「そういえば濃霧で魔力がどうのっていうのはどうなったんだろうな」


 俺の想像によれば凶暴化したモンスターと戦って、なんやかんやで頂上に登って、大きなドラゴンなんかと戦うのかと思ってたのに。


「モンスターどこだよ……」


 なにもなくてよかった、と思うのが一番なんだろう。肩透かし感は否めないが、ヴァルがこんな感じなのでこれでよかったのかもしれない。


「フラグとは」


 そんなことを言いながら、俺たちはなんてことない山道を下りるのだった。


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