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 シャルロットという仲間をくわえ、俺たちは山道を進むことになった。ヴァルが先頭に立ち、霧を晴らしながら歩みを進める。まだ納得していないのかぶつくさと文句を垂れていた。


「で、シャルはなんでこんなところに?」

「私、こう見えて商人なんですよ」


 スカートをわずかに持ち上げて見せた。


「まあ、確かに商人には見えないな。荷物も少ないみたいだし」

「荷物がないわけではないんですよ。私が扱うのは権利が中心ですから」

「権利?」

「建物の権利であったり、商売の権利であったり、例えば奴隷の権利であったりだとか」


 奴隷、という言葉にノアの耳がピクリと動いた。この話はあまり長引かせたくないな。


「つまり書類関係を持ち歩けばいい、と」

「そういうことですね。なので、この革の鞄一つでも事足りるのです。大きな会社を経営しているわけでもなく、一人で気ままにやってるので」

「事務所とかもないのか」

「そうですね、事務所なんかを持ってしまうとお金も余計にかかりますし。仕事が軌道に乗れば問題ないのかもしれませんけどね」


 シャルは口に手をあてて「ふふっ」と小さくわらった。


 身なりからして仕事はうまくいっているように見える。それに所作が綺麗で育ちも良さそうだ。商人というよりも貴族や王族のような、高貴な雰囲気があるのも違和感がある。


 しかし、言及するつもりはさらさらない。どうせ山を降りれば別れるんだし、詮索をして妙な勘ぐりをされたくなかった。


「じゃあもし俺が商売をしたいってなったらシャルに頼もう」

「その時はどうぞご贔屓に。これ、私の名刺です」


 名刺というシステムがこの世界にもちゃんとあるんだな。


 受け取った名刺には、名前と連絡先が載っていた。スマートフォンの電話番号のようなものだ。


「この連絡先ってなんだ? なにかの機械か? 俺持ってないんだけど」

「それは魔導通信機ですね。これです」


 シャルがバックから取り出したのは、俺の世界にあったスマートフォンよりもずっと厚い機械だった。画面には文字しか映っていないしやたらと重そうだ。


「知りませんか? アドバンスギア」

「初めて聞くな。それで連絡が取れるのか」

「そうですね、音声通話、声での会話ができます。でもすごく高価なもので、おいそれと買えるものでもないんですよね。しかも作れるのは大都市のごく一部の研究所だけなんですよ」

「そのへんでは売られてないってことか」

「大都市に行って、発注をして、一ヶ月くらいは待たないと買えませんね。魔法を通信システムとして使う関係で、機械を作る技師と、その機械に魔法を付与する高尚な魔法使いが必要になります。それがまた手間がかかるみたいで」

「逆を言えば、それだけシャルがもうかってるってことか」

「元手を作るの、だいぶ苦労しましたよ。でもおかげでどこにいても依頼を受けることができます。それに私はガナードを中心に活動してますので、ガナードまで来てくれれば話はできると思います」

「そうだな、小売業かなんかで余生を過ごすことにでもなったら相談しようかな」

「ええ、キチンとご案内させてもらいますよ」


 ニコリとシャルが微笑んだ。慣れた作り笑いだな、というのが率直な感想だった。


「ガナードを中心にしてるって言ってたけど、そこに住んでるってっことなんだよな?」

「そうなりますね。出身は違いますけど、いろんな商人が集まる町なので利便性がいいんです。大都市は競争率が激しく、利権争いが起きれば大きな企業が全部仕事を取っていってしまいますから、ある程度の町でないと個人経営は難しいんですよ。手数料なんかも、大きな企業には勝てません」

「難しいんだな、商売って。出身地はどこなんだ?」

「出身地ですか……すいません、その話はあまりしたくなくて……」


 初めてシャルの顔が曇った。なにか嫌なことでもあったんだろう。この話はこれ以上できそうにないし、そもそも実はそこまで興味がない。


「言いたくなきゃいいんだ、すまないな」

「いえいえ、大丈夫ですよ。それよりエイジさんたちはなぜこの山に?」

「まあちょっとした呪いをかけられてな。先頭の女に。で、解呪師を探す旅をしてるって感じ」

「目的地は決まってるんですか?」


 そう言えばどこに行くとか聞いてなかったな。ルナがいる場所、としか聞いてない。


「なあヴァル、ルナがいるところってどこだ?」


 話しかけるとギロリと睨まれた。


「かーっ、必要なときだけ名前を呼んで相手してもらおうって? いやだいやだ、女を都合がいい道具としか思っていない男はこれだからごめんなさい」


 俺がヴァルに手の平を向けたあたりで謝ってきた。


「アンドアルよ。国境都市ポータスを越えた先にあるわ」

「でも別大陸って言ってなかったか?」

「ポータスは港があるわ。で、アンドアルは海の向こうの港町。そういうこと」

「なるほど、納得した」


 そこに割り込んできたのはシャルだった。「あの」と、こちらの顔を伺うようにして話しかけてきた。


「ルナって、ルナ=アルファ、ですか?」

「そうだ。知り合いか?」

「いや、そういうわけじゃないんですけどね。彼女有名なので、もしかしたらそうかなって思っただけです」


 シャルは苦笑いをし、髪の毛を耳にかけた。その仕草がなぜか妙に気になった。

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