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朝一番でチェックアウトを済ませて迷いの森へ向かった。ヴァルが言う通り身体は問題ないらしく、軽快に森の中を歩いていた。時々しゃがんでなにかをしていたが、なにをしていたのか訊いても「ちょっとね」としか応えてくれなかった。
迷うことなく、昨日の遺跡の前までやってきた。
「出てきなさい。出てこないと森ごと焼くわよ」
「開けゴマ」みたいに言うけど内容はかなり物騒だ。だが効果があったのか、昨日遭遇した人型のトレントがいそいそと現れた。
「そ、それだけはご勘弁を……」
「嘘よ。で、なにか申し開きはあるかしら?」
「昨晩の件ですね」
「そう。アイツは厳重に封印したはずなのになんで出てきたの? それにあの男は一体なにもの?」
「正直私どもにわかることは少ないのですが、あの男が封印を解いたというのはわかります。私どもも彼らに脅され、どうすることもできませんでした。そのことに関しては平にご容赦いただきとうございます」
トレントはすばやく地面に手をつき土下座をした。迷いの森にはたくさんのトレントがいて、自分のテリトリーであることは火を見るより明らかだ。にも関わらず人ひとりに陳謝する。少しだけ可愛そうになってきた。
「なあヴァル」
「言わなくてもいいから。別に断罪しようとか思ってないから。で、ドライアードたちは無事なの?」
「それは大丈夫です。遺跡の中に監禁はされましたが、二人が消えたら結界も消えましたので」
「ならいい。帰るわよ二人共」
ヴァルはトレントに背を向けて歩き出してしまった。コイツにこんな慈悲深い一面があるとは思わなかったぞ。
「追求しなくてよかったのか?」
急いで追いつき横に並んだ。
「言及したところでなにも変わらないわ。トレントたちはなにも知らない。それに男が封印を解いたっていうのは間違いなさそう」
「どうしてわかるんだ?」
「は? 勘に決まってるじゃない」
「勘で動くなってマジで」
「男が私に放った銃弾はかなり強力な魔力が込められていた。でもどこ吹く風だったし、あれくらいは大したことないって感じだった。あの封印くらい壊しても不思議じゃないかな」
「封印ってそんなに脆いのか?」
「んなわけないでしょ。そのへんの魔法使いが束になって全力出したって壊せないわよ。じゃあなんで壊せたかって言われると難しいけど、それはこれから調べていくしかなさそうね」
「あのアイヴィーってやつはなにもんなんだ? スライムなんだよな?」
「スライムの頂点って感じ。生きた時間で言えば私よりずっと長生き。長く生きた分魔力も高いけど私ほどじゃない。所詮はスライムってとこで。でもアンタは絶対勝てないから、もし遭遇しても戦おうなんて思わないことね」
「いや戦わねーけど」
おっと、もしかしてクソめんどくせーフラグ踏んだか?
「それならいいだけどね。元々敵は多かったけど、相手にしたくないのをまた相手にしなきゃいけないだなんて」
ヴァルは額に手を当ててため息をついていた。
聞き逃していなければ「元々敵が多い」と言ったように聞こえた。できればなにごともなく呪いを解ければいいんだが、きっとそうもいかないんだろうな。
「さあ、サルボワ霊峰を越えてガナードへ向かうわよ」
森を抜けて草原に出た。一泊したキレットの向こう側、サルボワ霊峰を目指す。呪いを解くのはまだまだ先になりそうだ。




