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 全員が座ったのを確認して、ヴァルは背もたれに寄りかかってため息をついた。


「私には家事手伝いみたいな従者がいたの。名前をレオン、没落貴族の次男で、家が借金まみれになったことで家を追い出されたみたいだった」


 ヴァルの眼差しは非常に優しそうだった。


「顔も良く要領もよかった。もしかしたら私はレオンに惚れていたのかもしれない」


 いきなりそんなことを話し始めたせいか、他の連中は顔をしかめて首を傾げていた。話がある、程度で連れてこられたんだし仕方がないとは思う。


「でも恋人じゃなかったんだろ?」

「まあ、私とレオンじゃ立場が違うから」


 なんてことを悲しそうに言う。


「笑顔が眩しくて家事が得意だった。貴族だったからなのか楽器も得意だったな。レオンと暮らし始めて三年が経とうとした頃、レオンが買い出しに出てから戻らなくなってしまった。夜になっても戻らないことを心配して私は町に出かけた。町にもいないし、市場ではちゃんと買うものは買って帰ったと言われた。だから帰り道をくまなく探したんだ。そこで、レオンの死体を見つけた。暴行のあとがいくつもあったわ。財布も買ったものもなくなって、物取りの仕業だとすぐにわかった。その時初めて、レオンのことが好きだったのだとわかった。そして私はレオンを蘇らせようとした」

「生き返ったの?」


 と、ノアが恐る恐る訊いた。


「ええ、生き返ったわ」


 そう言ってヴァルは俺を指さした。


「別の魂を入れることで成功したわ」


 全員の視線が集まる。急にいたたまれない気持ちになるが、正直な話俺がそんな気持ちになるのはおかしいのでは。


「ってことはこの男は中身はエージだけど外見はレオンってこと? まさかそんなバカな……」


 ガーネットが言うことはもっともだ。魔法があったとしても人を生き返らせるなんて言われて信じられるわけがないのだ。


「実際に生き返ってるじゃない。ただ、まあ、いろいろと問題はあるんだけどね」

「あんまりいい予感はしないけど問題ってなんだよ」

「なにを言われても驚かないでね」

「いいから言えよ、もうなに言われても驚かないから」

「たぶんだけどエイジ、というかレオンの肉体は長くない」

「死ぬってこと?」

「そういうこと」

「なんでそういうことサラッと言うの?」

「いいから言えって言ったの誰よ」

「でも俺はどうして死ななきゃならんの?」

「レオンの体とエイジの魂は、一応適合しただけであって本来の姿じゃない。だから少しずつ綻びが出てしまうの。それはエイジが体に入ったところから始まってる。エイジは自分の記憶を思い出す度に頭痛に襲われる。エイジが記憶を取り戻す度に肉体との乖離が強まる。そうすると更に記憶が呼び起こされやすくなる」

「悪循環じゃねーか」


 いや、そこも気にはなるが一番話さなきゃいけないことがある。


「それは一旦置いといて、お前ワープする魔法とか使えるんだよな?」

「使えないことはないわね。用意に時間はかかるし大人数は無理だと思うけど」

「じゃあなんで使わなかったんだ? この旅だってわざわざ足を使わなくてもワープすれば済む話だっただろ。それともなにか? 主従の関係ってのも嘘なのか?」

「主従の魔法は本当だしラングラン古城に行かないとその魔法が解けないのも事実。ただ、少しでも長くレオンと一緒にいたかっただけ」

「わかってると思うけど俺はレオンじゃない」

「そうみたいね。記憶なんかも戻るかな、と思ったけど一向に戻る気配はなさそうだし」

「そういうのも狙ってたのかよ……」

「もう無理だっていうのがわかったから諦めたわ。どうやっても、きっとレオンは戻って来ない」


 一層悲しそうな目をして微笑んだ。


「特に、今エイジの魂を繋いでるのは主従の魔法だから」

「でもこの旅は主従の魔法を解く旅だよな」

「もちろん」

「じゃあ主従の魔法がなくなったら俺はどうなるんだ?」

「間違いなく死ぬわ」

「あー、そういう」


 だから魔法を解くのを引き伸ばしたかったわけか。

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