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すると少しずつ木々が減ってきているのがわかった。このままいけばたぶん拓けた場所に出るだろう。そこまで深くまで進行しているわけではないが、モンスターを倒したり方角を確認しながら進んでいたらそこそこ時間がかかってしまった。
そこでようやくニーナを発見することができた。
「ニーナ……だけじゃないな」
そこには五人の子供、そしてニーナがいた。ニーナ以外の子どもたちは地面にしゃがみ込んでいる。それを守るようにして、ニーナがモンスターの前に立ちふさがっているような形だ。モンスターはニーナの数倍はあるかという巨体。カマキリみたいなやつ、狼みたいなやつ、猪みたいなやつに蜘蛛みたいなやつ。普通の子供ならば泣いて叫んでも仕方ない。
子どもたちは全員涙を浮かべているが、ニーナに怖がるような素振りはなかった。むしろその顔は戦いを挑んでいるような、果敢に満ちた顔をしていた。
「なるほどな」
ニーナが森に飛び込んでいった理由がなんとなくだけどわかった。
モンスターが子どもたちに襲いかかる。俺が全力疾走してもギリギリ間に合わない。けれど、おそらく大丈夫だ。
ニーナの体が魔力で満ちていく。長い髪の毛は
「いくぞ……!」
彼女はそう言ってから地面を強く踏み込んだ。
俺が思っている以上に彼女は強かった。
とんでもなく速度で突っ込んでいったかと思えば、殴ったりけったりしてモンスターをぶっ倒していくじゃないか。イビートは魔力が高いとは知っているが、子供でもここまですごいのか。
そこそこの威力はあるしとんでもなく速い。モンスターは手を出せないでいる。けれど威力がそうでもないせいか、攻撃をし続けてもモンスターが倒れる様子はなかった。
さすがにこのままってわけにもいかない。
飛び跳ねて攻撃するニーナ。その着地に合わせて、カマキリのモンスターが鎌を振り下ろした。
「そうはいかねーんだな」
俺はニーナの前に立ってその鎌を受け止めた。カマキリのモンスターをぶっ飛ばして、ついでの他のモンスターもぶっ飛ばした。
「おまえ……」
「お前って言うな」
こんな時でも失礼だなコイツ。
「なんでここに? 危ないだろ」
「私はイビートだ。少しくらいなら戦える」
「子どもたちがここにいるのを知っててきたのか?」
「森の方に遊びに行くって言ってたから」
「そうか、この子たちを助けるためにこんなとこまで来たのか」
「だったらなに?」
ムッとしてしまうが、わずかに頬が紅潮しているようにも見える。
「コイツらにいじめられてなかったか?」
近くで見ると、ニーナが守っていたヤツはニーナをいじめていた奴らだった。
「イジメられたら、見殺しにしていいの?」
彼女が鋭い眼光を向けてきた。なるほど、あの母あってこの子ありってことなのかもな。なんて納得してしまった。
「いや、お前の行動を責めてるわけじゃないから安心しろ。それに他人の行動がどうあれ、自分の行動を貫くのは大事なことだからな」
そう言ったあとでわずかな頭痛。正直なところ、この頭痛が起きる原因はまだわからない。そのせいでちょっと面倒くさい。
ニーナは「ふんっ」と言ってから子供たちへと向き直った。
「さっさと帰りなよ」
子供たちに向けてそう言った。
「なんで助けてくれるんだよ」
リーダー格だろうか、一番体が大きい男の子が応えた。
「別に意味なんかない。ただ、こんなところで死んだりなんかしたらあんたたちのお母さんやお父さんが悲しむでしょ」
「なんで俺たちのためにそこまでしてくれるんだよ」
「あんたたちのためじゃない」
「でも俺たちを助けてくれただろ」
「私は私が正しいと思ったことをしただけだから。誰がなにを言おうが関係ないし、誰がなにを思おうが関係ない」
ニーナは小さな手で握りこぶしを作った。
「私はお母さんの娘だから。自分が正しいと思ったことをするって決めてるんだ。だからあんたたちのためじゃない。私は自分のためにやったんだ」
小さな体、まだ子供ではあるが、とてもかっこいいと思った。この先まっすぐに育てば、きっと、間違いなくこの子は母親の意思を継ぐのだろう。
「子供たちだけで帰らせるわけにもいかないな」
ここでようやく口を挟むタイミングがやってきた。
「おまえ誰だ?」
「なんでお前って言うの?」
俺に対して妙に突っかかるな。
「とりあえず全員でここを離れよう。モンスターもまだ湧いてくるだろうからな」
すでに前も後ろもモンスターに囲まれているような状況であるため、速やかに行動する必要がある。
「ニーナを先頭にしてこっち側に走れ」
人差し指を町の方に向けた。
「俺は後ろからついてく。ニーナは全速力で走らないようにな」
魔法を使って強化した脚力だ。人間の子供には追いつけないだろう。
「……わかった」
不服そうではあるが一応納得はしてくれたらしい。
ニーナが子供たちと顔を見合わせた。そうして、俺たちは町に戻るために走り出す。
熊のような大きなモンスターから、手のひらくらいの大きさの蜂なんかと遭遇しながらもひたすら進み続けた。




