13
次の日、起きてすぐに部屋の異変に気がついた。ヴァルがいないのだ。
「なにが大丈夫だよ」
起きた時に近くにいてくれないと安心できないだろ。
はて、ヴァルにそばにいてほしいのだろうか、俺は。
「まあいいか」
さっさと着替えて階下に降りることにした。正直なところ、動き回っていた方が気が紛れる。
といっても行く宛などあるわけがない。とにかく体を動かしたいだけだからそれでいい。
町を歩いていると西の方がなんだか騒がしくなってきた。楽しそうだとかそういう感じではない。どちらかといえば悲鳴とかざわめきとか、そっちの方向だ。
「なんかヤバそうだな」
面倒事が好きなわけではない。しかしそういった面倒事を放っておけないのが俺のいいところだ。
ため息をつきながらも西の方角へと足を向けた。
しばらくすると顔を青くした住民たちが走り込んでくる。
「モンスターだ!」
なんて言いながら走っている男性が先頭にいた。他の連中は悲鳴をあげるだけで精一杯みたいだ。
そういえば最近、西の森の方で凶悪なモンスターが出るとかって話を聞いたな。もしもそれが関係しているなら、正直俺一人じゃどうすることもできないぞ。
そんな時、子供が駆けていくのが見えた。
「なんでアイツが……」
見間違えることはない。ニーナだ。
すぐに追いかけようとするが人混みに紛れてしまって見失う。
「くそっ! なんでだよ!」
どうせ行こうとは思っていたが、俺一人きりなのと子供が一緒にいるのでは意味が変わってくる。
ニーナの背中を追うようにして、人波に逆らって歩き続けた。
少しずつ、少しずつ人が少なくなっていく。もしもモンスターが出たのならこれが正しい。人が少なくなって保安官が増えていく。
いや、保安官の数も多くはなかった。モンスターが多すぎるのだ。おそらくそこまで強くはないんだろうが、正面の森がほとんど見えないくらいの大群だ。保安官だけじゃどうすることもできないだろう。
そんな中で、森へと駆けていくニーナの姿があった。モンスターが正面からくるとすれば、ニーナは端の方のモンスターがいない方向へと走っていたのだ。
「ニーナ!」
それを大声で制したのはレニーだった。
けれどニーナは止まることなく森へと入っていく。レニーはモンスターとの戦闘で手が離せない。保安官同士で連携を取っているだろうから、勝手に動いて穴をあけるわけにはいかない。
彼女に駆けよると、彼女はこちらに気づいたようだ。少しだけ顔色が明るくなったように見えるのは気の所為じゃないだろう。
「言わなくていい。俺に任せろ」
レニーは神妙な面持ちでうなずいた。
「ごめん、お願い」
まあ、こんな美人にお願いされたら断れないわな。
首の左側に手を当てて魔力を込める。ノアの紋章を発動させると、ちょっとだけ毛深くなって筋肉が筋張ってきた。
「うし、行くか」
一気に加速して森の中へ。幸いといっていいのかどうか、昼間なのがありがたい。これならニーナを見つけるのも難しくはない。
狼みたいなモンスターとか木みたいなモンスターをぶっ飛ばしながら進んでいく。
「なんで見えないんだよ……」
モンスターだらけなのにニーナの姿がない。モンスターの間をすり抜けたいったのだとしたらとんでもない才能だな。もしかするとイビートとのハーフなのが理由だったりするのだろうか。
そんなことはどうでもいいか。今はとにかく前に進むのみ。獣人形態だからなのか、なんとなーくニーナがいる方向がわかる。
それからもモンスターを倒し続けながら進み続けた。




