12
俺は小さくため息をついた。胸のあたりでなにかもやもやはしているがヴァルを責めるのはなんか違うような気もする。この気持ちをどうやって鎮めたらいいものか。
「いい子だから蘇らせようってのは本当なのか?」
「それは本当」
「でもそんなことで人の生死を操るのがいいことかどうか、お前はわかってるよな? 不死身になったお前にならわかるはずだ」
「わかってるわよ。それでもなんとかしたかった」
ヴァルが顔を伏せた。そしてスカートをキュッと握りしめる。
「いけないことだってのはわかってたけど、こんなことになるとは思ってなかったわ。まさか別の魂が入り込むだなんて」
「それは偶然なんだな」
「アンタが呼ばれたのは偶然。でも他の世界からエネルギーを入手しようとしてたのは間違いないわ」
「エネルギーってどういうことだよ」
「人を蘇らせるには大きなエネルギーが必要だったの。それが人の魂だ、ということに私は行き着いた。行き着いたけど、その魂をどこから調達すればいいのかと途方に暮れて酒浸りになっていたところでアンタが来たってわけ」
「そこが酒の勢いってことか」
「そういうこと。だから同じこともう一度やれって言われたらできない。というかやろうとも思わないけど」
「大事な人が死んでも?」
「アンタみたいな人が増えても困るでしょ。アンタはなんでか知らないけどこの世界に理解があったけど、他の人がそうとは限らない。それに、困惑して事件を起こす人だっているかもしれないし」
こんな世界だからリアルなゲーム、もしくは夢と思って好き勝手するやつがいるかもしれないってことか。
「でもなんで黙ってたんだ? 事情を説明しようと思わなかったのか?」
「アンタが自分の体についてなにも感じないみたいだったから、余計なことを言わない方がいいかなと思ったのよ」
「言ってくれた方がよかった。こんなにいい顔してるんだから」
「いや、言わなくて正解だったって思ってるわ」
「なんでだよ」
「アンタ、昔のこと思い出すたびに頭痛が引き起こされてたじゃない」
「それが関係あんのか?」
「最初から気にはなってたのよ。脳みそはアイツのものなんだから、アンタの記憶があること自体が間違ってるの。で、案の定アンタの記憶はほとんどなかった。でもアンタが記憶を思い出すたびに頭痛が起きる。どういうことかわかる?」
「脳に負荷がかかってるってことか」
「そういうこと。アイツの体に別人の魂が入った時点でなんとなくそんな気はしてたから言わなかったの。案の定そうなったし、私の考えは正しかったわ」
「で、結局このまま記憶を思い出し続けたらどうなる?」
「わかんないけど死ぬ可能性もある」
「マジか……」
俺は、また死ぬのか。
あんなクソみたいな惨めな死に方しておいて、ここでもまたわけがわからない死に方をしなきゃいけないってことか。
そこで、また頭痛がやってきた。
「ああああああああああああ!」
頭を抑えてしゃがみ込む。
「エイジ!」
ヴァルが駆け寄ってきて体を支えてくれる。
「大丈夫?」
「まあ、なんとか」
「最近頭痛の頻度が多くなってきてるみたいね」
「かもしれないな」
「今もなにか思い出した?」
「いや、とっくになにも思い出してない。ただ、前世で死んだことを思い出しかけた」
「やっぱり前世では死んでたのね」
「死んでたのはわかってた。でもどういうふうに死んだのかまでは明確にわからなかったんだ。その死に方ってのが思い出せそうで思い出せない」
「いいわよ、思い出さなくて」
ヴァルが力を抜くと、俺の体が自然に倒れていく。あんまり力も入らないため、そのまま床に倒れ込んでいく。
そこを柔らかいなにかがクッションになった。気がつくと俺は上を向いていて、顔が逆さまになったヴァルと目が会った。膝枕されているのだ。
「思い出さなくていいの」
そっと俺の目元に手を当てて視線を遮る。ふと、瞼が落ちてきた。
「今はお眠り」
そう言われて、なんだか安心してしまった。頑張らなくていいのだ。少なくとも、今は眠っていいのだと安堵したのだ。
「いいのか……」
スーッと、意識が遠のいていくのを感じる。
「大丈夫だから。大丈夫」
ヴァルの魔法は俺には利かない。そのはずなのに、彼女から魔法をかけられているような、そんな眠気がやってきた。
最近は眠ってばかりだな。そんなことを考えながら意識が落ちていく。この心地よさが永遠に続けばいいのにと、最後にそんなことを思ってしまった。




