表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
134/143

11

 朝、目が覚めるとヴァルが俺の顔を覗き込んでいた。けれど俺は一言も発することができなかった。頭はやけにすっきりとしているのに、どうしてか喋ることができなかったのだ。


「なに? なんか顔についてる?」


 ヴァルがそう言った。


「いや別に」

「ならなんで黙ってるわけ?」

「逆に言うとなんで俺の顔を見てるわけ?」

「別にそれはよくない? なんなら寝てるときに私の顔を見つめててもいいわよ。交換条件としては妥当ね」

「なんとなく、お前が俺の顔を覗き込んでた理由はわかる」


 そう言ったあとで状態を起こした。


「イケメンだからとか言わないでよ? アンタがイケメンとか――」

「実際イケメンだろ」


 俺がそう言うと空気が固まった。俺の言い方のせいか、ヴァルがすぐに言葉を返して来なかった。


「きゅ、急になによ。そんな真面目な顔するなんてらしくないわよ」

「らしくない、か」


 俺は一体なにものなんだろう。現実世界だと思っていたものがファンタジーで、実はこっちが現実世界だったりするのだろうか。俺の本当の性格とはどういうものなのか。見て聞いて感じたことが、実は俺の感性ではなかったとしたら、なにが本当の自分なのかわからない。


 でも、聞かなきゃならない。


「本当の俺ってなんだ? らしいってなんだ?」

「どうしたのよ。ホントにアンタらしくない」

「俺はどうして金髪なんだ?」


 ヴァルが顔をしかめた。喉が鳴って、呼吸一つ一つが大きくなっているようだった。


「ずっと、金髪だったじゃない」

「瞳も緑色だった」

「だからどうしたの?」

「本当の俺は髪も瞳も黒いはずだ」

「記憶がなくなってるせいで勘違いしてるんじゃない?」

「じゃあ家族の記憶はなんなんだよ。あの記憶が蘇るたびに頭が痛くなる。お前、なにか知ってるんじゃないのか?」


 たぶんだけどコイツは何かを知っている。というよりも知らないはずがないのだ。ヴァルが意図して俺のこの世界に呼んだのだ。実際のところ俺を呼んだのかどうかもわからないが……。


 ヴァルが目を伏せた。右手の指を左手の指で弄び、深めの呼吸を繰り返していた。


「いつかこうなるとは思ってた」


 そうして、ヴァルが語り始めた。


「別に黙っていようとしたわけじゃないの。アンタが自分の姿に違和感をもってなかったから、それならこのままにしておいた方がみんなのためだと思った」

「みんなっていうのは俺とお前ってことか?」

「この件に関わるすべての人間よ」

「すべての……」

「私と、アンタと、アンタの体」

「やっぱりそういうことか」


 金髪を見たときになんとなくわかっていた。というよりも疑問に思っていた。この体は一体誰で、ヴァルはこの体をどこから持ってきたのか。そして、本当の俺はどうなったのか。


「これは誰の体だ?」

「誰のって言うほどのものじゃないわよ」

「元恋人か?」

「そういうんじゃないわ。ちょっとした知り合いみたいな感じね。家を追われてボロボロで、仕方なく拾ってあげたのよ」

「家にあった男物の服はそいつのか」

「それは歴代の元彼のよ。アイツも着てはいたけどね、文句とかも言わなかったから」

「男を住まわせてたってことか」

「雑用係よ。私の家、というかあそこって城みたいなもんでしょ? 私一人で管理できるわけないじゃない」

「二人でもキツイと思うがな」

「それがアイツは手際がよかったのよ。家事全般得意だったしね」

「好きだったのか」

「そういうんじゃないのよ、これが」

「で、結局そいつはどうなったんだ?」

「死んだわ。買い出しに行った帰り道に盗賊に襲われてね」

「つまりそいつを生き返らせたかったと」

「簡単に言うとそういうことね。いい子だったし、なんとかできないかと思って試行錯誤してたのよ」

「酒の勢いってのも嘘か」

「それは本当。ただそれくらい切羽詰まってたってことでもあるけど」


 この話題は他にもいろいろ掘り下げが必要みたいだな。この体の持ち主に関してヴァルがどんな感情を抱いていただとか、他人の魂が入ってもよかったのかとか、そこまでして蘇らせたかったのかとか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ