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 目を覚ますとベッドの上に寝かせられていた。暗くて天井は見えないが、首を動かすと泊まっている宿だということがわかる。ノアたちと一緒にいた時はまだ日は出てたのに、あれからどれくらい経ったか。


 上半身を起こしてため息をつく。なんだか頭がスッキリとしていていつもの頭痛とはちょっと違う感じだ。


 隣のベッドではすでにヴァルが就寝中だった。


「俺が大変なことになってるってのに」


 起き上がって背伸びをした。なんだかよくわからないが、頭痛がして倒れたあとにしては調子がいいな。


 そーっと部屋を出て一階に降りる。洗面所に行って顔を洗う。


 タオルを取って顔を上げた。顔を拭いてから正面にある鏡を見た。今日も相変わらずイケメンだな。


「イケメン……?」


 その時だった。今まで一番強烈な頭痛が襲いかかってきた。


「あああああああああああ!」


 頭を抱えて地面を転がる。今にも頭が割れてしまいそうなくらいに痛い。何も考えられない、何も考えたくないそれくらいに頭が痛いのだ。


 物凄い痛みだったが、それは数分と経たずに収まった。


 寝転びながら深呼吸を繰り返し、完全に回復してから立ち上がった。


 俯いたまま鏡の前に立ち、けれど前を向くことができずにいた。


 頭痛が起きた理由はわかっている。というよりも今まで頭痛が起きていた理由がわかったような気がするのだ。


 俺は意を決してもう一度鏡を見た。


「やっぱりか」


 鏡に映る俺は非常に男前だった。イケヘブにいてもおかしくないくらいのイケメン。金髪で緑色の瞳、高い鼻とほっそりとしたアゴ。


 でも俺はこの顔に見覚えがない。そう、見たことがないのだ。


 顔を何度も触って鏡の中の自分の行動と実際の行動を見比べてみた。間違いなく俺だ、俺がこの体を動かしている。


 そうして疑問がどんどんと現実へと向かって浮上していく。


「俺は、誰だ……?」


 鏡の中俺はどう見ても日本人じゃない。俺が知っている俺は黒い髪に黒い瞳、アジア人特有の丸くて平面的な顔立ちだ。


 今さっき変わったわけじゃないはずだ。たぶん最初から、この世界に来た時からずっとこの顔だったはずだ。でも俺は気づかなかった。


 パチッパチっと頬を叩いて痛みを確かめる。すべて現実だ。異世界であるけど現実に起きている。


 何がどうなってるんだ。どこでボタンをかけちがえたんだ。ヴァルはこのことを知っているのだろうか。俺はこの事実をどう受け止めたらいいんだ。


 どれだけ考えたところで答えが出ることはない。そんなことはわかっている。おそらく、答えを知っているのはヴァルだけだ。


 部屋に戻ってベッドに寝転んだ。頭の中はぐちゃぐちゃだけど、ずっと天井を見上げていると眠気がやってくる。


「こういうのはちゃんとしてるんだな」


 意外と冷静でいられていることに驚いていた。


 そうして、そんなことをしていいるうちにまどろみに飲まれていった。明日ヴァルに問いただそう。本当の俺を知っているのか。知っていてこの世界に召喚したのか。この体はいったい誰のもので、今いったいどういう状況なのか。


 そうやって考えながら、俺は眠りについた。

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