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ガーネットはあまり前に出て来ないタイプだが、それでもヴァルに関しては言いたいことがあったのかもしれない。それが鬱憤として溜まっていたと考えれば面白がるのも仕方ないか。
「それじゃあ私たちと買い物でもする?」
するとノアがそんなことを言い出した。
「なるほど、では行こうか」
断る理由がなかった。ノアもガーネットも美形なので両手に花束抱えてるよう感じになりそうだ。
「いいのか? ヴァルになんか言われたりしないか?」
「なんで俺がアイツのこと気にしなきゃいけないんだよ」
「なんでって、てっきりそういうことかと」
「そういうこととは」
「なんだ違うのか。違うなら別にいい、気にしないでくれ」
ガーネットは俺の左腕を抱きかかえて「さあ行こう」と歩き出した。右腕はノアに抱きかかえられたので、女の子二人に引っ張られる形になった。まさかこんな日が来るとは夢にも思わなかった。
そうして俺はノアとガーネットに連れられて街を散策することになった。
買い食いなんかをしながら新しいマントを買ったり服を買ったり武器を見たり。靴やアクセサリーなんかも見た。女の子とデートしてる感じがとてもいい。
「なあ、これなんかどうだ。黒光りしてて最高だろ」
銃を見つめて恍惚の表情を浮かべるガーネット。
「こういうのじゃない」
これはデートではない。もうちょっと色気があってもいいはずなのに、この女とでかけてもそういう感じにならなそうだ。
「銃は心の拠り所だ」
「まあそういう人もいるかもしれないけれども」
美女に銃器っていう魅力がわからんでもない。が、今は違う。
「もうちょっとデートっぽくできん?」
「そもそもデートではない」
「それ言われるとなにも言えない」
「でもデートしたいと」
「男ですから」
「そこは気の持ちようでなんとかして」
「うす」
そう言われてしまうと俺も頷くしかない。
「まあでも腕くらいは組んであげる」
なんて言いながらガーネットは笑っていた。
店から店を渡り歩く際にはノアが右腕、ガーネットが左腕にと男の夢が詰まった状態で歩くことになった。
食事をしようということで入った店で、俺を指差す女の子と遭遇した。そう、ニーナである。ちなみに隣の席にはレニーが座っている。
「おお少年」
なんて言いながらレニーが手を上げていた。
「少年、連れている女性が昨日と違うみたいだけど」
「ああ、あの年増とこの子たちと旅をしてるんだ」
「なんだ、イケナイ関係ではないのか」
「そうだったら俺も嬉しかった」
両サイドからの肘が腹部にめり込んだ。
「いてえんだよホントに……」
二人共戦闘に長けているだけあって不意打ちされるとマジで痛い。俺はちゃんと鍛えてないからなおさらだ。
じゃあ鍛えろ、というのはなしだ。面倒だからな。
「なるほど、そういう仲か」
「まあそういうこと」
「いい仲じゃないか」
「いいのか悪いのかわからん」
ニーナがイスから飛び降りた。テーブルを見ると皿が空になっていた。レニーも立ち上がり、二人が手を繋いだ。
「それじゃあ私たちは帰るけど、ここのご飯は美味しいからゆっくりしていきなよ」
「自宅のような口ぶり」
「よく来るからね、自宅みたいなもんだよ」
「全然自宅じゃねーよ、普通に客だよ」
「間違いない」
レニーは歯を見せて笑っていた。
「それじゃあ私たちは行くね」
「おう、またな。会うかどうかはわからないけど」
「この調子ならまた会うよ。じゃあね」
二人の背中を見送り、俺たちはテーブル席についた。
「あれ誰?」
イスに座ってすぐにノアが訊いてきた。
「気になる? 気になっちゃう?」
眼光が鋭くなったので慌てて手の平で腹をガードした。
「言う、言うから」
そう言って拳を収めてもらった。いつの間にこんなバイオレンスな正確になってしまったのだろう。
「なんてことない。盗みを働いた男を追いかけていた保安官とその娘だ。娘が同い年くらいの子たちにいじめられててそれを止めたというのもある」
「なんかまた面倒事に首突っ込んだ感じだけど、そういうところもなんかエージらしいかも」
笑顔が眩しいです。
「理解してもらってるのはありがたいけどなんか恥ずかしい」
こういう経験がないからとてつもない恥ずかしさがある。




