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宿に入る時にバチバチにいがみあっていたがそこは知らないフリをした。
入り口から入って右の方にノアたち、左の方に俺とヴァル。仲間が近くにいるのに部屋が違うっていうのはちょっと新鮮だ。
部屋はツインベッドで結構綺麗だった。
「まだ飯には早そうだな」
「そうね。んじゃ、私は武器を強化してから魔法札作るから」
机の上で勝手に道具を広げ始める。
「暇さえあれば作ってるな」
「魔力が戻るまでの辛抱よ」
ガチャガチャと魔法札と武器を取り出してなんやかんややり始めた。素人の俺じゃ理解できないのでなんやかんやとしか言いようがない。
「んじゃ俺はテキトーに街の中でも散策してくるかな」
「そういうときって大体の場合敵対関係にある人と遭遇するのよね」
「ノアたちのことか? 俺は敵対してないぞ」
「アイヴィーたちの可能性も」
「ないだろ。アイツらだって目的もなく頻繁に現れるわけじゃないだろうし」
「でも今なら私を殺せるかもしれないって思うかもよ?」
「魔力は低いけど不老不死はそのまんまなんだなこれが」
「ただ不老不死なだけの存在……」
「言い方が悪い」
そんなことを言いながらも手を休めない。基本的には万能なんだよな。ちょっと残念なところが目立つだけで。
「とりあえず気をつけるに越したことはないから」
振り返って、なにかを差し出してきた。数枚の魔法札だった。
「必要か?」
「念には念を、ってね」
ヴァルが札を広げた。全部で四枚ある。赤、青、緑、黄だ。
「赤い札は一定時間炎を使役できる」
「ってことは青は水だな」
「いいえ、青は動物を話ができる魔法よ」
「んでだよ」
意味わからん。こういうときは炎とか水とか風とか使わせるもんだろうがよ。
「ちなみに緑は声が大きくなるわ」
「なにに使うんだよ」
「助けを呼んだり」
「逆に言うけどそれ以外に使い道がないんだよね」
「助けが呼べないよりましでしょ?」
「お前と通信できる魔法とかでいいじゃん……」
「その手が……?」
「もういいよ大声魔法札で。それで最後の黄色は?」
「ゴーレム化の魔法」
「強そう」
「実際そこそこ強いと思うわよ。スピードはわからないけど間違いなくパワータイプになれるから」
「まあ大声よりは使えるだろ」
魔法札を受け取ってポケットに突っ込んだ。
「人からもらったものをクシャッとするのやめなさい」
「次から気をつける。んじゃな」
そう言って部屋を飛び出した。
「ドアくらい閉めて生きなさいよ!」
背中からそんな声が聞こえてきていたが、聞こえないふりをしてそのまま走って宿を出た。
「クソがー!」
最後までヴァルは叫んでいた。
外に出ると、ノアとガーネットが地図を見ているところだった。フラグ回収が味方でよかった。
「エージじゃないか。ヴァルの方はいいのか?」
ガーネットがため息をつきながら言った。
「一人でなんかやってるよ。魔法札作ったり武器強化したり」
「武器を強化?」
「なんか魔法を付与して強くするんだって。俺は弱いから武器くらい強いものを持っておけってことらしい」
「なるほどね。これからどうするつもり?」
「街の中をぶらぶら散策しようかな。特にやることもないし」
「剣の鍛錬とかは?」
「面倒だからいいよ。ちょっとやったけど使わないし」
「何回か盗賊と戦ってたじゃないの」
そこにノアが突っ込んできた。たしかにノアを助けた時もそうだったが、何回か戦う機会はあったな。
「大丈夫、みんな強いから」
親指を突き立てて言った。間違ってはいない。
「それに刻印の能力もあるしな。でもヴァルの力は使えないんだろ?」
「使えないってほどじゃない。いつもより弱いし、ほんのり魔法が使える程度だからそこまで意味がないだけ」
「使えないのと一緒じゃないか」
ガーネットは楽しそうに「ふふっ」と笑っていた。




