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 俺がそう言うとヴァルがため息をついた。


「ただの腕力じゃないわよ」

「どういうことだ?」

「彼女、常に魔法を使ってるわね。魔法というか魔力を体に纏っているという方が正しいかもしれない」

「え、ごめんわかんない」

「彼女、尻尾は服で、角は帽子で隠してはいるけどイビートなのよね。イビートは総じて魔力が高くて、別に意識してなくても魔力が漏れたり、無意識に魔法を使っていたりするわけ」

「それであの怪力ってことか」

「イビートが保安官なんて珍しい場所だわ。基本的にイビートは多種族と関わろうとしないから」

「そりゃなんで? 魔力が高ければできることも多いだろうに」


 ヴァルは顎に指を当てて眉根を寄せた。


「その昔、イビートは奴隷として飼われることが多かったんだ。強い力は持っているけどイビートは数が少ない。ヒュートはずる賢くて、魔力を抑え込むような道具も作れたからな。ただ魔力が高いだけの存在はそこまで怖くなかったわけだ」

「いろいろあったんだな」

「まあそういうこと。とりあえず用事も済ませたし宿でもとりましょうか」

「アイツらはどうするんだ? 約束もしてないだろ」

「いらないわよ。あっちはあっちでなんとかするでしょ」

「お前ってやつは……」


 好き勝手に歩き始めてしまったのでついていくしかない。一人にさせるとなにやらかすかわからないからな。


 そうして近くの宿をとり、近くのレストランで食事をした。


 その帰り道、子どもたちの群れに遭遇した。五人の子どもたちがなにかを囲んで蹴りを食らわしている場面だった。子どもたちの隙間から見えたのは別の子供の姿だった。こんなところで子どもたちのイジメに遭遇するとは。面倒事には関わりたくないが、こんな状況を見て見ぬ振りはできない。


「アンタ、妙なこと考えてるんじゃないでしょうね」

「妙なことってなんだ。イジメはダメだ」

「変な正義感出さない方がいいわよ。特に子供の喧嘩ってのは大人にはわからなないものだから」

「お前はババアかもしれんが俺はギリ子供だ」

「殺○すぞ」

「ちゃんと伏せろって」


 子供へと歩み寄って「こらこら子供たちよ」と話しかけた。


「なんだよ! やんのか!」

「しょっぱなから物騒」


 子どもたちは全員俺のことを睨んでいた。そこまで睨まれる覚えもないが。


「イジメはいかん。仲良くしろ」

「うるさい! コイツは俺たちとは違うんだ!」


 輪の中心にいる子供を見た。周囲の子供と比較しても体が小さい。それに髪が長いところからすると女の子だろう。


「お前ら女の子に暴力振るってんのか」


 子どもたちをかき分けて、その少女を抱きかかえる。顔立ちは可愛らしく、少しキツめの目付きはどこかで見たことがある。


「大丈夫か?」


 次の瞬間、少女が顔面にパンチをかましてきた。が、それくらいは簡単に避けられる。


「ふっ」


 しかし二発目の膝が腹に入るとこまでは想像できなかった。


「おうふっ……」


 少女が俺の懐から飛び出して立ち上がる。


「アンタなんかに助けてもらわなくてもなんとかできたわ!」


 次は蹴りが飛んできた。避けようとしたが脇腹が意外と痛くて、つま先をもろに鼻筋に食らってしまった。


「うおおおおおおおおおおお!」

「死○ね!」


 ちゃんと伏せてください。


 少女の一撃にも関わらず、痛みで気がつけば少女はどこかに行っていて男の子だけが残る状態になってしまった。


「おっちゃん、大丈夫か?」

「ああ、かろうじてな」


 立ち上がってホコリを払う。まさか助けたら肘とつま先もらうことになるとは予想できなかった。


「それよりなんでイジメてたんだ? 相手女の子だろ」


 見た感じみんな男の子だ。男の子五人が寄ってたかって女の子一人をイジメているのはさすがに見過ごせない。


「アイツが悪いんだよ」


 と、男の子の一人が言った。


「なんかしたのか?」

「いつも一人でいるから遊びに誘ったんだ。でもアイツ、いつも何も言わないで石を投げてくるんだ」

「そりゃ危ないな。でも複数人で女の子一人をいじめるのはよくない」

「そんなことわかってるよ」

「よし、じゃあ俺がなんとかしてやろう」

「なんとかって?」

「どうして石を投げてくるのか聞かないと解決のしようがないからな。お前らが行ったらまた大変なことになるだろうし」

「大丈夫なの?」

「まあなんとかなるだろ。任せておけ」


 そう言って胸を叩いた。


「ちょっと」


 少し遠くの方で、ヴァルが不機嫌そうにしていた。


「言いたいことはわかる。が、こういうのも旅の醍醐味というものだ。一度関わっちまったことだしな」

「また勝手に……」

「ほら行くぞ」


 女の子が走っていった方へと足を向けた。ヴァルはため息をついていたが、なんだかんだ言いながらもついてくるところがヴァルらしい。

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