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 起き上がってホコリを払う。


「この頭痛の原因とかわらないか?」

「原因を探せってこと? 難しいわね。どの部位の頭痛だから痛みを緩和させる、みたいなことはできるけどね」

「おつ起こるかわからないからそれも難しくない?」

「慢性的じゃないからね。ずーっと続いててくれればこっちにもやりようはあるけど、エイジの感じだと私にはどうしようもないかな」

「付き合ってかなきゃいけないってことか」


 話し始めて、いつの間にか頭痛は治まっていた。


「そもそもどういう時に頭が痛くなるの?」

「元の世界にいた時の記憶っていうか、そういうことに関係した事柄に直面すると頭が痛くなる」


 最後に「と思う」と付け加えておいた。


「曖昧」

「確かなことは言えないからな。それにすぐに治まるもんだから困る」

「頭痛が起きた時に痛みを緩和する魔法でも……」


 ヴァルはそう言いかけてため息をついた。


「アンタに私の魔法は効かないんだった」

「あと現在進行系でお前の魔力は落ちてる」

「まあ、頭痛の件は自分で頑張りなさい」

「わかっとるわい」


 それからヴァルは鞭と剣を一本ずつ取ってカウンターに乗せた。


「店長! お会計!」


 その声を聞いて、店長が駆けつける。とんでもなく俊敏だがめちゃくちゃ腰が低い感じになってる。


「お代は結構ですんで持っていってくだせえ」

「いいの?」

「はい、大丈夫です」

「それじゃあもらってくわね」


 ヴァルは「はい」と言って俺に剣を持たせ、自分は鞭を片手に出口に向かっていった。


「あ、これ忘れ物よ」


 出ていく際になにかを店長に向けて飛ばした。俺が見る限り金色のコイン、おそらく金貨だと思う。


「じゃあね」


 最後にそう言って店を出た。


「代金はいいって言ってただろ? なんで金貨を?」

「ただより高い物はないのよ。さ、テキトーに宿とってそこで武器を強化しましょう。今の私だとそれなりに時間がかかるだろうし」

「アイツらと合流しなくていいのか?」

「大丈夫よ。そのうち寂しくなって謝りに来るでしょ」

「絶対こっちから謝りに行くやつじゃん」


 コイツはこの年齢まで生きてきてフラグってもんを知らないのか。


 その時「待てー!」という女性の声が聞こえてきた。向こうからボロ布を纏った男が駆けてきて、その後ろを警察官らしき女性が追いかけている。


 女性の脚が遅いわけではないが、男の方が明らかに走るのが速かった。


「食い逃げかなんかでしょ。私たちが気にすることじゃない」

「薄情者はそのまま宿に行ってていいぞ」

「本気?」

「とか言いつつ俺がなにもしようとしなかったらお前が自分でなんとかするだろ」

「わ、私はそういう偽善に興味ないから」

「こういう偽善の精神で生きてるくせに」


 駆けてきた男に足をかけた。漫画かなんかみたいにすっ転んで飛んでった。路上で積み重なっている木箱に突っ込み、そのまましばらく動かなかった。


「やりすぎたか……?」

「慣れないことするからこうなる」

「俺が善行できない人みたいに言うのやめない?」


 歩み寄って、気絶している男を引っ張り出した。そこそこ体格がいいので面と向かって殴り合ったらやられてたかもしれない。


 警察官らしき女性が俺たちのところにやってきて、膝に手をついていた。長距離を走ってきたんだろうか、なかなか息が整わないみたいだ。


「大丈夫か?」

「ええ、ありがとう」


 女性が顔を上げた。赤褐色の肌が眩しい女性だった。思ったよりも背が高く俺と同じくらいはあるだろう。


「警察官だよな?」

「そうよ。ここの警察官になって二十年よ」

「二十年も務めてるのか? まだ二十代に見える」

「お口が上手いわね、坊や」

「坊やか、確かにな。エイジ=アサミヤだ」


 そうやって手を出せば、彼女は笑顔で手を握り返してきた。


「レニー、レニー=バレンタインよ。アナタたちは旅の人? しばらくここにいるの?」

「そのつもりだ」

「ここは観光なんかできるところもないけど、武器なんかはいっぱいあるからそういうところで楽しんでって」

「まあそうなるよな」

「あと長期滞在するなら西の森には行かない方がいいわ。最近凶暴なモンスターが出てきて封鎖してある状態だから」

「封鎖してあるなら大丈夫なんじゃ?」

「若い人はそういうところ、行きたがるでしょ?」

「そういうことね。じゃあ西の森には気をつける」

「そうして頂戴」


 彼女は男を後ろ手に手錠をかけ「それじゃあね」と立ち去ってしまった。


「すげー腕力だな」


 男はまだ気絶してたのだが、彼女は襟を持ってズルズルと引っ張っていったのだ。女は見た目によらないってことか。

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